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コメ、小麦、大豆、トウモロコシは大丈夫か?

世界からバナナがなくなるまえに

 農業のグローバル化によって栽培の効率化が進み、食物の多様性は急速に失われつつある。驚くなかれ、現在の人類が消費しているカロリーの80%は12種、90%は15種の植物から得られているに過ぎないという。今では世界中の野生の草原の総面積より、トウモロコシ畑の面積のほうが大きくなってしまったというのだから、さもありなんである。

 

 農作物を栽培する企業にとっては効率よく栽培できる作物の単一栽培が望ましい。しかし、多様性を失った種は、ひとたび病原菌などの外敵に遭遇すると、絶滅に追いやられる。その一例として挙げられるのが、本書のタイトルにもなったバナナだった。

 20世紀前半にグアテマラで巨大なバナナプランテーションを運営して、バナナ帝国を築いたアメリカ企業、ユナイテッド・フルーツ社が選んだのはグロスミッチェルという品種だった。同社がバナナの輸出でグアテマラの国民総生産の2倍の収益を上げた1950年頃には、世界中で輸出用に栽培されるバナナはグロスミッチェルだけになったほどだった。だが、繁栄はたった1種類の病原菌「パナマ病菌」で瓦解する。グロスミッチェルだけのバナナ園は壊滅し、同社は対応を迫られた。数年がかりで発見したのがグロスミッチェルの類似種、キャンベンディッシュだった。現在、世界中のスーパーで売られている唯一のバナナにまで復興しているが、これも絶滅と背中合わせにあることは間違いない。

 ジャガイモに依存していたアイルランドでは19世紀に、ジャガイモ疫病が発生して大飢饉となり100万人以上が死に、100万人以上が移民を余儀なくされた。この悲劇を生み出したのはたった1つの病原菌だったことを思うと、現在の農業が置かれた危機が理解できるだろう。

簡単に実行できる「農作物テロ」の恐怖

 

 本書が取り上げる危機と背中合わせにある作物は、キャッサバ、カカオ、コーヒー、ゴムノキ、小麦、トウモロコシ、米......。バナナ同様、絶滅と背中合わせにある単一品種の大規模栽培がなされている作物を壊滅の危機から救うために研究を続ける科学者たちの闘いがリポートされる。

 

 考えられる最良の対策は多様性の維持であることは間違いない。これまでも多くの科学者が種子バンクを作るなどして対策を講じてきた。だが、これには途方もない時間と資金が必要だ。しかも、そんな逆境に負けず地味に採取と育種を続け、15万種もの野生種を育てた科学者が、政治に翻弄されて妨害を受け、志半ばで死んでしまう話などは悲劇としか言いようがない。

 

 もっと恐ろしい話もある。2006年に事実が表面化した「チョコレートテロ」だ。世界最大のカカオプランテーションが天狗巣病に侵された。感染を防ぐために10万本近い木を切り落としたが病気は収まらず、すべての農園のカカオの木を切り落とす事態に発展。世界第2位のチョコレート生産国だったブラジルは純輸入国に転落し、カカオ農民をはじめとする20万人が失職し、多くの自殺者を生み出した。実はこれが農園主に敵対するグループによる病原菌ばらまきテロだったのだ。これと同様のことが起きても、現状では防ぎようがないというから恐ろしい。

 

 こうした悲劇を最小化する方法はある。それは私たち一般消費者が地元産の作物を買うことだ。これにより、地域農家による少数品種の作物栽培が維持され、それが多様性の喪失を防ぐ結果になるからだ。地球の食糧の未来を握るのは、実は私たちだということか。(BOOKウォッチ編集部 スズ)

  • 書名 世界からバナナがなくなるまえに
  • サブタイトル食糧危機に立ち向かう科学者たち
  • 監修・編集・著者名ロブ・ダン著 高橋洋訳
  • 出版社名青土社
  • 出版年月日2017年7月25日
  • 定価本体価格2800円+税
  • 判型・ページ数四六判・397ページ
  • ISBN9784791770052
 

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