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「文久元年の海外特派員」、日本で何を見たか

  • 書名 チャールズ・ワーグマン 「幕末維新素描紀行」
  • 監修・編集・著者名チャールズ・ワーグマン(著)、山本秀峰(編訳)
  • 出版社名露蘭堂
  • 出版年月日2017年9月30日
  • 定価本体3700円+税
  • 判型・ページ数A5判・ 246ページ
  • ISBN9784904059579

 幕末、日本の鎖国から開国への動きは急ピッチだった。1853年、ペリー来日。54年、日米和親条約と日英和親条約。58年、米英など5か国と修好通商条約。外交官だけでなく一般人も来日するようになる。

 その一人が英国の画家兼ジャーナリスト、チャールズ・ワーグマン(1832~91年)。英国の週刊新聞「イラストレイテッド・ロンドン・ニュース」の特派記者として61年(文久元年)4月、長崎にやってきた。

下関戦争の取材

 まず、驚くのは当時すでにイギリスにはイラスト入りの週刊新聞があったこと。部数が約30万部だったというからすごい。ワーグマンは、イギリス公使オールコックの一行とともに江戸に向かった。ところが、江戸に到着したとたん、宿舎で大人数の攘夷の刺客に襲われる。水戸藩脱藩浪士による第一次東禅寺事件だ。

 早速その様子をスケッチして本国に送った。迫真の現場ルポ、英国側は拳銃や鞭で応戦する。英国公使らを警護する幕府の役人たちも必死で刺客と戦う。計5人が死亡、多数が負傷。ワーグマンは、来日直後に早々と大事件に遭遇し、トクダネをものにした。

 彼はこの事件で日本に懲りることはなかった。むしろ西欧とはあまりにも違う日本に興味を持つ。62年には居留外国人向けの雑誌「ザ・ジャパン・パンチ」を創刊、自分も横浜居留地に住み、63年に日本人女性と結婚。64年には下関戦争の取材にも出向いた。67年、大坂城で将軍徳川慶喜とパークス公使やアーネスト・サトウとの会見にも立ち会う。いずれもまだ江戸時代のことだ。そしてそのまま長く日本に住むことになる。

 本書はそのワーグマンが残した多数のイラストや記事をまとめたもの。これまでにも同種のものは刊行されているが、今回、新しく「画家・美食家の東海道の旅」という項目が追加されている。1872(明治5)年の旅行記だ。宿の朝食のメニューなども細かく記されている。

高橋由一に油絵を教える

 当時すでに写真は発明されていた。ペリーの一行には写真撮影の担当者もいた。しかし、写真は出来上がるまでに時間がかかる。ワーグマンのスケッチは現場ですぐに描くので、取材に遭遇した庶民たちにも人気だったようだ。実際、遠近法なども取り入れた描写のテクニシャン。残された作品を見ると、人物や風景はほとんど写真で撮ったものと変わらないぐらいリアルで精密だ。特に群集図が巧み。画面のなかで多数の登場人物を描き分け、それぞれに異なる表情を与えている。

 西洋画の伝統に根差したワーグマンの絵は、評判になったようだ。弟子入りする日本人もいた。その一人が、日本最初の洋画家といわれる高橋由一。ワーグマンから直接油絵を習い、のちに「鮭」の絵で日本美術史に名を残した。

 91年、ワーグマンの死を知った「イラストレイテッド・ロンドン・ニュース」は長文の追悼文を掲載した。「日本人の生活や性格について彼以上に精通し、また過去30年間、かの国に起こった変化についてより完全な記憶を持つ者はだれもいないであろう...」。

 17世紀以来、世界に触手を広げていた大英帝国。アヘン戦争(1840~42)、アロー号事件(56~60)などですでに清には権益を確保していた。そして日本にもいち早く入り込んでくる。ワーグマンの活躍ぶりを通して、当時の英国の卓越した情報収集力の一端を再認識することもできそうだ。

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