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NHKさん、朝ドラのヒロイン候補がいます

女が美しい国は戦争をしない

銀座で人気ナンバーワンだった美容師の一代記

 モダンガールが闊歩する戦前の銀座に1人の人気美容師がいた。高根マサコという18歳で山口県から上京したばかり個性的な女性だった。彼女が腕を振るったのは、大正末期に日本で初めてパーマネント技術と機械を導入した"美容サロンの先駆け"ともいえる銀座「ハリウッド美容室」。手本も何もない時代に、独自の美意識と手先の器用さで次々と斬新なヘアスタイルを作り出した彼女を、多くの女優や文化人が指名した。

 子供時代から花嫁より花嫁の支度や化粧をするほうが好きだったマサコにとって、美容師はまさに天職だった。まるで水を得た魚のように働き、この美容室を経営する元ハリウッドスターの日本人実業家・牛山清人ことハリー牛山に見初められ、"業務命令"で結婚し、メイ牛山と名乗る。しかし、日本はその後、戦争に突入してゆき、女性のおしゃれが自粛され、ついにはパーマネント禁止。メイも疎開を余儀なくされる。しかし彼女は「日本の女性を美しくする」という夢を失わなかった。本書は戦後、焼け野原となった東京で「東洋一のサロンをつくる」夢を実現し、近代美容のパイオニアとして2007年、96歳で亡くなるまで現役を貫いた美容家の一代記である。

家ではエプロン、外ではキャデラックが似合う女

 

 彼女の人生は、まるでNHKの朝ドラのようにドラマチックだ。だから、どんな苦難にも前向きに立ち向かって成功を手にした女性の生きざまとして読んでも、本書は純粋に楽しめるはずだ。だがそれではあまりにももったいない。なぜなら、本書にはメイ牛山の説得力ある「名言」が山のように散りばめられている。その中からいくつかを紹介しよう。

 まず、本書のタイトルもそのひとつ。戦争を経て思い至った彼女の生きる目標だ。「私の仕事は日本中の女性をきれいにすること。女が美しい国は戦争をしない」と決意した。内弟子に問われて自分の理想を語る場面では「家ではエプロンかけて、掃除でもお料理でも何でもできて、外ではキャデラックが似合う女」と答えている。亡くなった義母の生き方を称えて「大事なことは"女のプロ"になること。専業主婦であろうと仕事を持とうと、プロ意識をもった"女"になるの。それができたら、日本の女性はみんな、もっと美しくなるわ」と夫に語る。地方講演で質問されて「打算でする結婚は、人生一番の不幸ね」。「ヴォーグ・ニッポン」から「世界のパワフルウーマン」に選出されたインタビューでは「頭は地球と同じ。いつもぐるぐる回しておくことよ」「人間、欲が深いから、何でもかんでも取り込みたいと思うわね。それができないと焦ったりして。そうじゃなくて、"出す"ほうが大事なのよ」......と、こんな具合に次々と含蓄のある言葉を吐いていく。

 最後にもう一つだけ彼女の言葉を紹介する。2000年に多摩に移転した工場の竣工式で彼女はこう言った。

 「私ね、お金儲けには縁がないけれど、人儲けはずいぶんしたと思っているの」

 美容家として人間として、常に相手のしてほしいことは何かを考え、実行してきたメイ牛山の人生を象徴する言葉だと思う。著者は好作品を多数残している脚本家だ。ぜひ、この本は早急にドラマ化してほしい。(BOOKウォッチ編集部 スズ)

  • 書名 女が美しい国は戦争をしない
  • サブタイトル美容家メイ牛山の生涯
  • 監修・編集・著者名小川智子 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2017年10月25日
  • 定価本体価格1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・290ページ
  • ISBN9784062206853
 

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