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元公安担当刑事が書いたオウム事件の「真相」

カルマ真仙教事件

 

 著者の濱嘉之氏は中央大法学部を卒業して警視庁に入庁後、ノンキャリアながら、警視庁、警察庁の公安セクションで実績をあげ、2004年に警視にまでのぼりつめて警視庁を退職。現在は『警視庁情報官』シリーズなど作家活動のかたわら、危機管理コンサルタントに従事している。本書『カルマ真仙教事件』はフィクションだが、著者がオウム真理教による一連の事件の事件捜査にあたった、当時の経験をもとに執筆したものだ。教団名と教祖・幹部の名前などは実在のものとは異なるが、事件の構図やディテールはほぼオウム真理教のそれと重なっている。元捜査員としての守秘義務はあるのだろうが、あの事件から20年以上たち、フィクションだからこそ書ける「真実」の一端にふれ、戦慄した。

 

 上、中、下の3巻からなる大著だが、2つの感想を持った。一つは公安はかなり早い時期からオウム真理教団の危険性に気づき、幹部信者とひそかに接触を重ねていたということだ。これは驚きだった。さらにサリンを製造しているのではないかという疑いも持っていたというのだ。それなのに警察は松本サリン事件で無関係の市民を誤認逮捕するという過ちを犯した。警視庁と県警、公安警察と刑事警察の壁がその原因だった。

 

 その後も捜査は後手に回り、警察は地下鉄でサリンを撒かれるという敗北を喫した。その2日後に大規模な強制捜査が行われた。迷路のような教団施設に踏み込む主人公の描写には、実際に現場に立ち会った者にしか分からない緊迫感がある。

迷宮入りした警察庁長官狙撃事件の真相は?

 

 もう一つは、警察庁長官狙撃事件についての見立てだ。オウムによる犯行と決めつけ、その後、警視庁警官だった信者が自分の犯行だと名乗り出たものの立件はされず、幹部の更迭など警察組織に大きな傷を残したまま迷宮入りした事件だ。著者は北朝鮮が裏で動いた可能性があると推理する。本書によると、オウム真理教団と北朝鮮、ロシアのトライアングルで莫大なカネが動いたという。こうしたことも事件から20年以上たち、書くことが解禁されたのだろう。

 

 著者も本書の主人公も当時「チヨダ」と呼ばれた公安の裏組織に所属し、さまざまな活動に従事する。公安も一枚岩ではなく、キャリアとノンキャリア、出身地による派閥などが絡み、それぞれが組織の中での生き残りと栄達をかけて競っている。著者の現役時代を投影しているのか、それとも多少のうっぷんばらしもあるのか、主人公はまるでスーパーマンのように大活躍する。

 

 近年、元警察官による小説が増えているが、本書は警察小説の白眉と言っていいだろう。オウム真理教事件という日本近現代史に残る事件を舞台に、その当事者が犯人たちと知恵を競いあうのだから、面白くないはずがない。たぶん著者は警察内部で作られた捜査報告書も見たうえで書いていることだろう。3冊をあっという間に読了した。(BOOKウォッチ編集部)

  • 書名 カルマ真仙教事件
  • 監修・編集・著者名濱嘉之 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2017年6月15日
  • 定価本体640円+税(上)
  • 判型・ページ数文庫判・285ページ(上)
  • ISBN9784062936910
  • 備考上、中、下の3巻からなる

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