読むべき本、見逃していない?

天才たちの音楽が聞こえてくる気がする

  • 書名 蜜蜂と遠雷
  • 監修・編集・著者名恩田陸 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2016年9月23日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六版・507ページ
  • ISBN9784344030039
BOOKウォッチ編集部コメント
 

 本書『蜜蜂と遠雷』は、直木賞と本屋大賞をダブル受賞した作品である。一昨年(2016年)の発行にもかかわらず、いまだに平積みされている書店もある。この人気の秘密はどこにあるのだろう。

 

 芳ケ江国際ピアノコンクールという架空のピアノコンクールに挑む若者たちの群像劇である。著者の恩田陸氏がインタビューで明らかにしているように、浜松国際ピアノコンクール(3年ごとの開催)がモデルだ。恩田氏は2006年の第6回から2015年の第9回まで4度取材し、執筆を進めたという。

 

 主要登場人物は4人。養蜂家の父とともにヨーロッパを移動する風間塵15歳。音楽の常識をくつがえす破壊的な演奏が特徴だ。伝説的な音楽家ホフマンの推薦で出場することになった。唯一の女性が栄伝亜夜20歳。かつて天才少女として登場したが、その後音信が途絶えていた。物語のヒロインでもある。彼女の幼なじみでもあるマサル・カルロス・レヴィ・アナトール19歳。ニューヨークからの参加である。そして最年長、出場資格ぎりぎりのサラリーマン高島明石28歳。3人の若者が天才肌として描かれるのに対し、努力型の大人として造形されている。

 

 予選は3次まであり、勝ち残った者が本選での演奏を競う。ピアノの演奏ぶりを描写するため当然ながら、音楽をさまざまな比喩で表現している。「音が聞こえてくるようだ」というネットでのコメントが多いが、直木賞の選評では一部の委員から「音楽が立ち上がってこなかった」との厳しい指摘もあった。

 

 だれが優勝するかが物語のカギである。本作を「音楽小説」と理解するよりも「スポ根小説」として読んだというネットのコメントがあった。うまい言い方だと思った。確かに本作では勝ち負けが物語を推進する原動力となっている。評者は正直言って、3次予選あたりから、読むのに飽きてしまった。それは各段階の構造がまったく同じだからである。高校野球のトーナメントを見るような印象すら受けた。

 

 ネットで検索すれば分かることだが、一色まことのマンガ『ピアノの森』との類似を指摘する声も少なくない。ピアノコンクールを舞台にすれば、似たような展開になるのは仕方ないことではあるが。

 

 音楽がモチーフという点では、2016年にやはり本屋大賞を取った宮下奈都の『羊と鋼の森』(文藝春秋)が思い出される。こちらはピアノの調律師の成長物語である(2018年6月に映画公開予定)。

 

 さて冒頭の疑問に立ち返ろう。なぜ多くの読者をひきつけるのか。それはスポーツの試合にも似た勝ち負けの原理という分かりやすさが全編貫かれていること。次に天才たちが技巧を競い合うさまに感動したいという「天才信仰」だろう。現実にはあり得ないような音が聞こえてくる(ような気がする)からだ。現に本作に登場する課題曲を集めた8枚組のCD全集も発売されている。恩田氏が本書で発散するエネルギーがあまりにも強烈でインパクトがあるからか、あるいは音楽と文学は意外と親和性があるからか。(BOOKウォッチ編集部)

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