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科学的研究に「タブー」はない

なぜペニスはそんな形なのか

 進化生物学の発達は心理学の世界にも影響を与え、進化心理学というジャンルが生まれた。ヒトだけが持つ身体的・心理的・社会的特性について、なぜそれがそうなのかを進化的適応という側面から考察していく学問である。本書『なぜペニスはそんな形なのか』(2017年3月、化学同人刊)のタイトルのように、公的な場で口にするにはちょっと不謹慎かと思われるテーマも、進化心理学では真面目な謎なのだ。

 著者のジェシー・ベリング氏はニュージーランドのオタゴ大学サイエンス・コミュニケーションセンターの准教授で、メディアに登場することも多い実験心理学者だ。本書の序章では自らゲイであることを公表もしている。本書は、そんな著者が性的に中立な立場から、ペニスや陰嚢の形、早漏、陰毛、潮吹き、マスターベーションなどの「下半身」の問題を進化心理学的に面白おかしく解き明かすエッセイ集だ。この他にも、小児性愛、動物性愛、無性愛者、ホモ恐怖、足フェチ、ゴムフェチ、ファグ・ハグ(男を好きな男を好きな女)などの性や嗜好の問題、埋葬、神と宗教、自殺など、科学が扱うことを躊躇してきたテーマについて最新の研究を紹介しつつ自説を展開し、読んで考えさせられるエッセイに仕上げている。

早漏のほうが有利なはずだが......

 第4章では「早漏」について考察している。単純に進化という観点から考えた場合、遅漏よりは早漏のほうが有利なはずだ。すなわち、より早く射精する男性のほうが、敵から危害が加えられるのを避けることができるため、より長生きし、その結果高い地位を占め、多くの雌を獲得することができたはずだからだ。しかし、実際に不名誉の烙印が押されているのは早漏のほうだ。この「早漏者生存」説の欠陥があるとすれば、女性の側のセックスの追求とかみ合っていないからだと述べた心理学者はいたが、それ以降の科学はこの問題を検討していないというのだ。

 著者はヒトだけで進化した社会的認知力と関係している可能性があると言う。セックスの間に相手への共感を体験できる唯一の種となったことで、男性は自分が満足するだけでなく、相手を満足させることについても考えるようになり、その結果、彼女のために自分のオルガスムを遅らせることができるようになったのかもしれないと書いている。

 この他にも、動物性愛者の誰もが驚くであろう研究事例や新しい埋葬法としての樹木葬の提案など、興味深いテーマが並ぶ。

 本書はこれまでの科学ではややタブーとされたテーマを取り扱っているが、本来、科学にはタブーはないはずだ。著者も自身が科学に惹かれたのは「科学の世界には聖なるものなどなかったし、問いが馬鹿げていることも、してはならない問いというのもなかった」からと書いている。忘れてしまいがちだが、科学的姿勢とはまさにこの言葉に象徴されるといってもいいだろう。(BOOKウォッチ編集部 スズ)

  • 書名 なぜペニスはそんな形なのか
  • サブタイトルヒトについての不謹慎で真面目な科学
  • 監修・編集・著者名ジェシー・ベリング著 鈴木光太郎訳
  • 出版社名化学同人
  • 出版年月日2017年3月 2日
  • 定価本体価格2500円+税
  • 判型・ページ数四六版・344ページ
  • ISBN9784759819267

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