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最近の自民党議員は「顔」が見えない

自民党秘史

 新聞記者は文学部系がのぞましい、という話を聞いたことがある。様々な事象の登場人物について、まるで小説家のように、その内面まで入り込んで描くことができるのではないか、と期待されるからだろう。

 本書『自民党秘史』(講談社)を著した元日本経済新聞政治部長・岡崎守恭さんは早稲田大学人文科卒。マスコミに多い政経学部出身ではないようだ。そのせいか、筆致がやわらかく、政権を争った派閥領袖たちの人間味のあるエピソードが満載だ。

田中角栄、中曽根康弘、竹下登、金丸信...

 岡崎さんは1951年生まれ。政治記者歴約40年、取材した首相は22人。永田町を長年ウォッチしてきたベテランジャーナリストだ。90年には、ブッシュ大統領から海部首相にかかってきた電話を「ブッシュホン」と名付けて流行語大賞。「土光臨調」の答申などスクープも多い。かつて、官僚は与党政治家に弱く、政治家は記者に弱い、と言われたそうだが、そのころ政治家の懐にしっかり食い込み、日経新聞を支えてきた記者のようだ。

 本書には田中角栄、中曽根康弘、竹下登。金丸信など、近年の自民党を牛耳ってきた多数の有力政治家がテンコ盛りだ。それぞれが、時代劇の登場人物のように、強烈な個性と威厳を持ち、互いに競い合う。「主役」も「ヒール」も役者がそろっていた。彼らが自分の言葉で、自分の思いを身近な記者に伝えた懐かしい時代があった。

 田中角栄氏は著者に、富士山には白雪と裾野があると話した。東大卒の政治家には旧制高校時代からのエリートの仲間がいる。彼らが「白雪」として富士山の美しさを盛り立てるが、自分にはない。だから「裾野」を幅広く泥臭く耕すしかないと。

 中曽根康弘氏はどうか。海軍の経験があり、政治家になってからも青年将校の異名をとって剛直なイメージが強かった。しかし、大平正芳首相が急逝を知って遺体と対面し、車に戻ると、両手で瞼を覆った。号泣と言ってもいいほどだった。もちろんその車には岡崎さんも乗っていたということだ。

取材規制が強まっている

 このように多数の目撃談を語りながら、岡崎さんは、最近の政治記者はつまらないだろうと記す。こんなにも多くの自民党議員がいるのに、その「顔」が見えない。次を狙う人がいることは知っているが、その人たちの「ドラマ」は何も見えない。「『一強』の人ににらまれないように、あえて見えないようにしているのだろうか」と皮肉る。

 政治記者以上にはつまらないのが国民、有権者だ。「政治にとって一番、危険なのは『飽き』と、そこからくる『無視』である」と政治の現状や行く末を憂う。

 取材規制が強まっていることに疑問を投げかける。とくに安倍晋三首相にはご不満だ。首相が立ち止まり、首相番記者の質問に答える「ぶらさがり」。小泉純一郎首相は一日二回、定例化してしっかり発信したが、安部首相はマイクの前で自分のコメントを発表しておしまいというケースが目立つ。首相の動静を伝える短信欄もあっさりしている。誰かの結婚式に出ても、「知人の結婚式に出席」ということしか発表されない。のちに調べたら、「知人の夫」は自民党から出馬、希望の党の若狭勝氏の「刺客」になっていた。

 人材の「劣化」はしかし、昨今、ジャーナリズムの世界でも、財界でも似ているような気もする。ただ「政治」の世界では「二世」が幅を利かせ、小選挙区になって、自民党員同士の競争が薄れたことで「劣化」に拍車がかかっている。公認を得るためには、ときの権力者、党執行部に逆らえない。そのあたりも、ちらっと書いている。

 本書には「過ぎ去りし政治家の面影」という意味深長な副題が付いている。これは1999年に和辻哲郎文化賞を受賞した名著『逝きし世の面影』(渡辺京二著、平凡社)を念頭に置いたものに違いない。古き良き日本への哀切を込めた同書と同じように、著者の岡崎さんは最近の日本の政治や政治家が失ったものを懐かしむ。やはり「文学」のしっぽが垣間見える。

  • 書名 自民党秘史
  • サブタイトル過ぎ去りし政治家の面影
  • 監修・編集・著者名岡崎守恭 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年1月17日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書・232ページ
  • ISBN9784062884600
 

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