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夢中になったお父さん、必読ですよ

テトリス・エフェクト

 冒頭から物語に引き込まれた。時は冷戦終結間際の1989年2月。日本で小さなゲーム会社を営むアメリカ人が、日本企業の命を受けてモスクワ入りする。時を同じくして、西側ライバル企業の使者2名もモスクワに向かう。まるでスパイ映画のような雰囲気だが、本書は綿密な取材に基づいて書かれたノンフィクション、つまり実話だ。

10億ドルを売り上げた奇跡のゲーム

 彼らがモスクワ入りした目的はただ1つ。社会主義国家・ソ連の鉄のカーテンの向こう側にいるはずの役人と交渉し、世界中が夢中になっているゲーム「テトリス」の販売権を取得することだった。当時のテトリスの人気は凄まじかった。多くの海賊版が出回ったにもかかわらず、公式版の売り上げは約数10億ドル。史上最も売れたゲームにもかかわらず、テトリスは正式な販売契約が結ばれない曖昧な状態で世界に流通していた。ゲームの黎明期、次々と開発されるゲームメディアで正式にテトリスを販売するためには、何としても正式な販売契約が必要だった。しかし、鉄のカーテンの向こうに隠れたテトリス開発者の姿は、西側諸国の使者にはまだ見えていない。手探り状態でのモスクワ入りだった。

 本書『テトリス・エフェクト』(白揚社)の最大のヤマ場は、知的所有権ビジネスで大きな遅れをとるソ連と契約をどちらの陣営が勝ち取るかの競走の場面だ。契約の何たるかから開発者の受けるべき権利まで、すべてを正直伝えたうえで契約を提案した任天堂の使者は、正式な契約がないままに見切り発車のような形でテトリスを販売していたズルい先行者にひと泡吹かせ、最終的な勝利を収める。まさに胸がすく思いがする展開だ。

最悪の環境で最高のゲームが生まれた

 本書で楽しめるワクワク感は、もちろんこれ以外にもたくさんある。リアルに描写されるゲーム黎明期の時代背景のなかで、任天堂やアタリ、テンゲンなどのゲーム企業や、ゲーム業界の伝説の人物が次々と実名で登場するだけでなく、テトリスに関する科学的研究の詳細、豆知識などもふんだんに書かれ、まるで「テトリス百科」ともいえる。多くのエピソードの中でもテトリスが誕生するまでの開発物語は感動モノだ。

 ロシアの青年アレクセイ・パジトノフが、西側諸国より10年以上送れたコンピュータ環境の中でいかにしてテトリスを生み出したか――。原始的なグラフィックスさえ使えない初期のマシンで、彼が思い描く理想のゲームを実現するには、余分なものを徹底的にそぎ落とし、本質的なものだけを残さなければならない。彼が作った超シンプルなプロトタイプは、そのゲームに触れた人を次々と"中毒"にしていく。そして改良に改良を重ねてテトリスを完成させていく。

 最悪の環境下だから生まれたともいえるテトリスは人づてに世界中に広まっていく。しかし、社会主義国家ソ連の壁は強大で、開発者のアレクセイの懐には1ルーブルさえ入ってこなかった。そんな悲運の開発者と任天堂の使者との友情物語も本書の味わいを深めている。

  • 書名 テトリス・エフェクト
  • サブタイトル世界を惑わせたゲーム
  • 監修・編集・著者名ダン・アッカーマン著、小林啓倫訳
  • 出版社名白揚社
  • 出版年月日2017年11月 1日
  • 定価本体2300円+税
  • 判型・ページ数四六版・358ページ
  • ISBN9784826901987
 

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