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秋田犬も秋田県も生き残れるか?

秋田犬

 「秋田犬」は「あきたけん」ではなく「あきたいぬ」と呼ぶ。国の天然記念物で唯一の大型日本犬である。読売新聞記者で、秋田支局在勤中は秋田犬やハチ公の記事を書き続け、秋田犬の復興を呼びかけた著者宮沢輝夫さんが戌年の今年に合わせた訳ではないだろうが、秋田犬にまつわる話題をまとめたのが本書『秋田犬』(文春新書)だ。

 秋田犬の復興というのは、こんな事情があるからだ。地元の秋田県大館市でさえ秋田犬は30匹に満たず、イタリア、スペイン、ドイツ、フランス、ポーランドなど欧州各国でかえって普及が進んでいるという。大館市に本部を置く秋田犬保存会の会員の3分の1は海外会員が占める。

 最近では、秋田県知事から贈られたメスの秋田犬「ゆめ」を愛玩するロシアのプーチン大統領の映像が、日露首脳会談を前に一昨年(2016年)公開され、話題となった。国内よりも海外で人気が高まっており、著者はロシア極東の秋田犬ブリーダーを訪ね、人気の秘密を探っている。

 秋田犬は天然記念物に指定されているくらいだから、日本固有の純血種かと思っていたら、そうではない事実を明かされ驚いた。近代に入り、闘犬に使われるようになると洋犬や樺太犬との交雑が進んだという。さらに闘犬に強い土佐犬との交雑も行われた。「アメ細工のように人間の手でいろいろな姿形に変えられてきた」という関係者の話を紹介している。

 そんな秋田犬の最大の特徴はオオカミに最も近い遺伝子を持ち、独立心が旺盛なことだ。

 著者は日本で最も有名な秋田犬である「忠犬ハチ公」伝説の真相にも迫っている。飼い主の大学教授を駅で待ち続けたという「忠犬説」と駅前の居酒屋の残り物の焼き鳥が目当てだったという「焼き鳥説」が対立しているが、著者は新たに渋谷駅周辺を自分の縄張りと見ていたという「テリトリー(縄張り)説」を提唱している。オオカミに最も近い遺伝子を持つ秋田犬の習性がその根拠だ。また人には優しいが、「犬同士のけんかではハチ公の右に出る者はなかった」という文献もあるという。

 地元秋田では、「秋田に行っても秋田犬を見ることが出来ない」という内外の観光客の声に応えるため、大館市や秋田市で秋田犬にふれることの出来る常設施設を作る計画が進んでいる。人口減少率が日本一で県勢の衰退が叫ばれる秋田にあって秋田犬は、観光での生き残り戦略の一つになろうとしている。肝心の秋田犬を飼う人は減っているのだが。

  • 書名 秋田犬
  • 監修・編集・著者名宮沢輝夫 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2017年12月20日
  • 定価本体860円+税
  • 判型・ページ数新書判・237ページ
  • ISBN9784166611522

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