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将棋で描く『砂の器』ミステリー

盤上の向日葵

 将棋がこれほどメディアの注目を集めたことは、かつてなかっただろう。一昨年(2016年)12月、14歳の藤井聡太四段(現六段)が加藤一二三九段を破り、公式戦勝利の最年少記録を更新、その後新記録となる破竹の29連勝を果たした。さらに今年(2018年)2月、羽生善治永世七冠を朝日杯将棋オープン戦準決勝で破り優勝し、六段に昇格。その動向が将棋ファンだけではなく社会の関心を集めている。この将棋ブームを予見していたような作品が、本書『盤上の向日葵』(中央公論新社)だ。

 若き天才棋士・壬生芳樹(藤井六段と羽生永世七冠を合わせたような造形)にタイトル戦「竜昇戦」で挑戦するのは、プロ棋士の養成機関である奨励会を経ず特例でプロになった東大卒のエリート棋士・上条桂介六段という設定だ。最終戦の第7局の会場である山形県天童市に埼玉県警の2人の刑事が乗り込む。埼玉県内の山中で発見された白骨化した遺体の横には、有名な最高級品の将棋の駒があったのだ。

 駒の由来、所有者を追い、2人は全国を走り回る。その描写と並行して、上条六段の幼少時代の過酷な生育環境が描かれる。この構造はどこかで読んだことがあると思ったら、松本清張の『砂の器』だった。『砂の器』ではハンセン病の父親とともに全国を放浪する少年が、やがて一流の作曲家になり、自分の過去を隠すために罪を犯した。本書でも早い段階で上条がクローズアップされるので、あとは動機の解明に読者の関心は向かう。

アマチュア棋士にも凄みがある

 著者の柚月裕子さんは山形県在住。『検事の本懐』で大藪春彦賞を受賞した中堅のミステリー作家だ。プロ棋士の協力を得て、実戦と同じような緊迫した棋譜を作中に再現した。またプロだけでなくアマチュア棋士や愛好家の生態も詳しく描写している。なかでも上条が東大生時代に行動をともにする元アマ名人の東明重慶には、「プロ殺し」の異名をもった伝説の真剣師小池重明の面影が重なる。賭け将棋で生計を立てるその凄まじい生き方は、団鬼六の『真剣師小池重明』で広く知られるようになった。

 プロ棋士の世界はもちろん厳しい。またアマチュアの将棋界にも底知れないものがある。だからこそ世間は若き天才、藤井聡太六段の活躍に喝采を叫ぶのだろう。

  • 書名 盤上の向日葵
  • 監修・編集・著者名柚月裕子 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2017年8月25日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・563ページ
  • ISBN9784120049996
 

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