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時代が「浦高」に追いついてきた

埼玉県立浦和高校

 作家、元外務省主任分析官の佐藤優さんが、母校の埼玉県立浦和高校で行った講演などをもとに構成されたのが本書『埼玉県立浦和高校』(講談社現代新書)だ。「社会に出て何度かピンチに陥るたびに、浦高で培った『力』に助けられた」と語る佐藤さん。単なる母校愛を超えて、これからどうやって学んでいけばよいのか、多くのヒントに満ちている。

 埼玉県の公立高校の雄とされる浦高だが、近年、県内の私立高校に東大合格者数で肉薄され、地盤沈下が指摘されている。浦高には茨城県の古河市まで約50キロ歩く競歩大会やクラス対抗のスポーツ大会など、多くの行内行事がある。一見受験にはマイナスのように思えるが、人生には馬鹿馬鹿しいと思っても避けられない与件があり、その中で最大限の力を発揮することが重要だ、と指摘する。佐藤さんはこれを「総合マネジメント能力」と呼んでいる。

 また文系でも数学を、理系でも歴史などをきちんと履修することが、知識の欠損を防ぎ、大学や社会に出て役に立つという。総合的な学力こそ、必要だというのだ。

 幅広い読書量と該博な知識、卓越した語学能力で知られる佐藤さん。どうやってその能力を形成されたかの一端も開示されている。高校生ながら当時の日本社会党の青年組織である社青同(日本社会主義青年同盟)と縁があり、浦高新聞の印刷を社会党本部の印刷所で印刷するよう交渉したというエピソードも。当時の浦高新聞には、社会党左派のイデオローグだった鎌倉孝夫氏(当時埼玉大学経済学部助教授)との座談会も掲載されている。そこから資本論研究の宇野弘蔵学派への関心が広がり、理論的に物事を考えるスタイルが身に付いたという。学校の成績は必ずしもよくなかったが、スポイルせずに育ててくれた恩師への感謝を語っている。

文武両道を掲げる公立高校

 現校長の杉山剛士さんとの対談も収められている。2020年から大学入試センター試験に代わり、大学入学共通テストが始まる。知識だけでなく思考力、判断力、表現力を働かせ、「主体的に多様な他者と協働する力」「正解ではなく納得解を作りあげる力」が求められているという。杉山校長は「ようやく時代が浦高に追いついた」と話す。全国には浦和高校のような文武両道を掲げる公立高校が少なくない。首都圏の受験に特化した私立高校との新しい競争が始まるかもしれない。

 佐藤さんはおおむね新テストの方向性は正しく、施行後、10年ほどで高スペックの大卒者が増えるだろうと予測する。彼らが社会に出たとき、いまの社会人にとって強力なライバルが出現するとも。

 佐藤流の大学受験や不確実な時代を生き抜く知恵も披露され、同校関係者だけでなく広く読まれていい本だ。特に高校生に読んでもらいたい。

  • 書名 埼玉県立浦和高校
  • サブタイトル人生力を伸ばす浦高の極意
  • 監修・編集・著者名佐藤優、杉山剛士
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年3月20日
  • 定価本体760円+税
  • 判型・ページ数新書判・205ページ
  • ISBN9784062884709
 

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