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ハワイ産でも「江戸前」鮨の理由とは

旅する江戸前鮨

 東京・四谷の鮨の名店「すし匠」の主人、中澤圭二さんは50歳を目前にハワイに移住し、現地でとれる魚を使って鮨をにぎるという冒険に打って出た。この模様を長期間取材したフジテレビのドキュメンタリー番組をたまたま見て、「ご主人大丈夫かな?」と心配になったことを覚えている。ハワイに揚がる魚の種類は少なく、あまり質が良くなかったのだ。しかしそれは杞憂に終わったようだ。本書『旅する江戸前鮨』(文藝春秋)は、ノンフィクション作家一志治夫さんが、ハワイ進出からその後をフォローし、江戸前鮨の進化をレポートした本だ。

 一志さんには東京の別の名店「寿司 いずみ」を取材した『失われゆく鮨をもとめて』(新潮社)という著書もある。丁寧で繊細な「江戸前」の仕事にほれ、東京中の名店を食べ歩き、一時は持ち金のほとんどを鮨につぎ込んでいたという鮨通だ。

 本書も前半は江戸時代以来の鮨の歴史をふりかえる。江戸後期に握り鮨が誕生してから、おにぎりのような鮨を経て酒とともに鮨を食べる時代になった。新鮮な魚をすし飯にのせて握っただけの「海鮮鮨」が主流になる中で、ネタを酢でしめたり熱を通したりの手間をかける「江戸前鮨」の伝統も続いてきた。江戸前の中でも「すし匠」の中沢さんは「熟成」を発見したことで知られる。ネタを何日か寝かすことでアミノ酸のうまみが極限まで増えるのだ。

 ワイキキの店で出されるつまみや握りの写真が本に載っている。ハワイ産ヤシの新芽と新生姜、シアトル産ミル貝と真珠湾のクレソン、ハワイ産オノ(カマスサワラ)の昆布絞めの握り、ハワイ・ノースショア産のボタンエビの握り......。シャリはカリフォルニア米8と日本米2のブレンドだという。

 中澤さんがハワイに持ち込もうとしたのは日本の魚介ではなく、江戸前鮨の技法だった。シャリに合うように魚を手当すること。塩をあて、昆布締めにしたり、漬けにしたり、火を通したりする。試行錯誤の結果、ハワイの魚介でも江戸前の鮨になった。

 ハワイまで食べに行くわけにはいかないが、中澤さんのDNAをひいた名店が東京だけでなく日本各地にあることも分かった。回転鮨に行く回数を減らしてでも食べたくなること請け合いだ。

  • 書名 旅する江戸前鮨
  • サブタイトル「すし匠」中澤圭二の挑戦
  • 監修・編集・著者名一志治夫 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年4月15日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・215ページ
  • ISBN9784163908267
 

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