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日大アメフトに教えたい、復活できる「謝罪の法則」

競争と協調のレッスン

 会社など組織の内外で、生活で、取引先や顧客、上司や同僚、家族や知人・友人と、人が接する相手はさまざまだ。本書『競争と協調のレッスン』(TAC出版)によれば、それとの関係性には常に「友」と「敵」のいずれかになる可能性があり、心理学や交渉学の専門家である著者らは、そのバランスをどうとるかが「成功」のかぎを握ると述べる。

米MBA名門校教授らが執筆

 著者は、コロンビア大学ビジネススクールのアダム・ガリンスキー教授と、ペンシルベニア大学ウォートン校(ビジネススクール)のモーリス・シュヴァイツアー教授。2人は共同で、心理学、経済学などの分野で数多くの論文を発表しており、米ビジネス界リーダーたちが参考にしているという。両校は世界の「MBAランキング」で上位に名を連ねており、ウォートン校はトランプ米大統領の母校としても知られる。本書の執筆にあたっても、それまでの論文と同じく、米国内外から数多くの資料、データを検討、分析して引用、主張に厚みを持たせた。

 組織の問題として近年は、不祥事や品質や労務や人事についての問題がしばしばとりざたされる。そうしたトラブルから早期に立ち直るためには「謝罪」が重要。本書では、失敗したあとに復活できる人、できない人がおり、その差が生じる「謝罪の法則」があると指摘する。復活できる人はもちろん「競争と協調のレッスン」を体得している人だ。

 信頼して宿泊した最高級ホテルがモーニングコールを忘れたり、世界のトップブランドだからと購入した車が欠陥でリコールになったりするのは信頼に対する裏切りであり、協調していた顧客との関係は悪化に転じる。対応しだいでは敵になることもある。ビジネス面での行動心理学が専門の著者らはこう述べる。

 「すばやく修復の努力をすれば、元のよい関係に戻ることができる。多くの場合、裏切りそのものよりも、信頼を回復する努力の方がものを言う。そして場合によっては、効果的な謝罪はイメージを高め、相手との関係をさらによくすることもある」

 日本の企業や組織のなかには、このことをもっと早く知っていればと悔やむ担当者が多くいるのではなかろうか。日大アメフトにも教えたい。

アップルの汚点となったジョブズ氏の会見

 ドイツのECサイトをめぐって約600人のユーザーがネットのレビューで否定的な評価していて、英研究者らが、この人たちに対し評価削除を依頼して反応をみる実験を行った。ユーザーらを2.5ユーロか5ユーロを渡すグループと、金銭ではなく丁寧な謝罪の言葉を示すグループに分けて実施。その結果、2.5ユーロでは19.3%が、5ユーロでは22.9%が依頼に応じたが、言葉だけのグループでは最も高い割合の44.8%が自分たちの評価を削除した。

 謝罪で苦しんだ例として挙げられているのは、アップルのCEOだったスティーブ・ジョブズ氏。2010年に発売したiPhone4に問題があることを指摘されなながら腰をあげようとしなかった。やっと会見を開いたときに、いかにも渋々といった風情で「これは謝罪ではない」とまで口にした。しかも、報道のせいで騒ぎが大きくなったとマスコミを非難。著者らは「このエピソードは、伝説を作って企業にとって大きな汚点となった」と指摘する。

ケースごとに指針も付記

 本書ではほかに、組織のトップに立ったとき、序列のなかでの振る舞いなどについて、競争と協調というアングルからみたケーススタディーを提示。組織内で、男女間での「敵対」がなくなり「協調」、つまり平等化進むと、男性を含む全員が恩恵を受けるという研究結果を検討し「男女平等の波は、すべての船を持ち上げる」と論じているのも興味深い。各章末には、その章でのテーマに応じた「(協調と競争などの)正しいバランスの取り方」というまとめが加えられており理解を助けてくれる。

 本書は、見返し、扉と開くとすぐ片側1ページの目次で序章のほか10章建てであることが示される。序章を除きそれぞれ1行の説明があるが、翻訳書ということもあろうが、その各章の1行説明が分かりにくく、また、翻訳版としてのまえがきなどもないので、相当に読み進まないとテーマが分からなかった。序章に「まえがき」の役割が託されているようだが、登場するのは1996年に発生した駐ペルー日本大使館占拠事件。当時のフジモリ大統領の「協調」の交渉、「強硬」の突入作戦が、「競争と協調のレッスン」の格好の例の一つだと理解はできるが、読者の年齢によってはなかなかピンとくるというわけにはいかないだろう。

  • 書名 競争と協調のレッスン
  • サブタイトルコロンビア×ウォートン流 組織を生き抜く行動心理学
  • 監修・編集・著者名ダム・ガリンスキー、モーリス・シュヴァイツアー(著)、石崎比呂美(訳)
  • 出版社名TAC出版
  • 出版年月日2018年3月22日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・352ページ
  • ISBN9784813271536

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