読むべき本、見逃していない?

中国の「天安門世代」は、日本の「全共闘世代」・・・

  • 書名 八九六四
  • サブタイトル「天安門事件」は再び起きるか
  • 監修・編集・著者名安田峰俊(著)
  • 出版社名KADOKAWA
  • 出版年月日2018年5月18日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数B6判・304ページ
  • ISBN9784041067352
BOOKウォッチ編集部コメント

 天安門事件――1989年6月4日、中国・北京の天安門周辺を中心として民主化を要求するデモなどが盛り上がったが、軍に鎮圧され、多数の死傷者、逮捕者が出た。中国共産党政権の強権ぶりを今に語る事件として有名だ。

 本書『八九六四』(株式会社KADOKAWA)は、中国通のルポライター、安田峰俊さんが当時の関係者約60人を訪ね歩き、今の心境などを聞いたものだ。

現在の肩書はさまざま

 安田さんは1982年生まれ。立命館大学文学部で東洋史を専攻し、広島大学の大学院に在学中に中国に留学、一般企業勤務を経て、中国通の研究者、ジャーナリストとして活躍している。著書に『中国人の本音』(講談社)、『中国・電脳大国の嘘』(文藝春秋)、『和僑』(角川書店)などがあり、雑誌やテレビに登場する機会も多い。J-CASTニュースでも何度か、コメントでお世話になっている。

 安田さんの特徴は、イデオロギーや大所高所で物事を語るのではなく、庶民目線、等身大というところだろう。本書では約60人にインタビューしたというが、学者や新聞社の特派員のように生真面目に肩肘をはった感じではなく、普段着で話を聞いている様子がうかがえる。

 登場しているのは、天安門事件のリーダーとして余りにも有名な王丹、ウアルカイシなどから、無名の参加者までいろいろだ。現在の肩書は、投資会社幹部、民主化活動家、旅行会社経営者、ジャーナリスト、タクシー運転手、大学教授など多彩。それぞれに会った場所と日時が記されている。2015年が多い。場所は中国内、日本、台湾など。

米国でIT企業の経営

 王丹氏は現在、台湾の大学で客員教授。「たとえ事件が起きなくたって、同じ人生だったはずですよ」。学究肌で、優秀すぎることでリーダー役を担うことになっただけに、世界中のジャーナリストから何度も聞かれ続けている質問に、淡々とよどみなく答える。

 ウアルカイシ氏はやはり台湾でビジネスマン・政治活動家。「(当時の我々は)何が民主であるのかは知らなかったが、何が民主であらざるものかは知っていた」「われわれは責任を負い、それを果たそうとした。それは歴史により与えられた責任だった」。雄弁ぶりは相変わらずだが、かつてのスマートなルックスの青年は、恰幅のいい中年に変わっていた。2016年には台湾政界で立候補したが、泡沫に近い扱いだった。

 女子学生のリーダーとして知られた柴玲氏は米国に亡命、IT企業の経営者になったそうだが、安田さんの取材申し込みに返事がなかった。

 もちろん中国にとどまり、まだしぶとく民主化運動に関わっている人もいる。あるいは「中国だって、昔と比べればずっと自由になった」と呟く元活動家も。

若い世代からは敬遠される

 習近平体制になって、改めて民主化の動きについて圧力が強まっていることは、大手メディアでもしばしば報じられている。社会のサイバー化が進み、データの一括管理で個人の言動や、交友関係が当局に筒抜けになっているのが現在の中国。体制に不都合な思想を持つ中国人は、間違いなく監視のターゲットになっていると、安田さんは書く。

 本書のインタビューの多くは15年までに行われているが、監視が強まる中国で、こうしたインタビューを行うのはもう不可能だと「あとがき」で書いている。「滑り込みセーフ」というわけだ。

 現在の20~30代の中国人には、天安門世代のおじさんおばさんを「独特の考えを持つ人たちで、理屈っぽくて面倒くさい」と敬遠する傾向が見られるという。安田さんは「デモ隊が求めた目標は違うとはいえ、往年の日本の全共闘世代とのギャップにやや近い構図があると言えるかもしれない」とも書いている。

 評者は先日、たまたま中国の歌番組をネットで見たのだが、日本の紅白歌合戦ばりにド派手で大仕掛けなのに驚いた。出演者も会場もめちゃめちゃに盛り上がる。画面を見ているだけでは、そこが台湾なのか香港なのか中国なのか、全くわからない。もちろん30年ほど前の天安門事件の匂いなどどこにも感じられない。いわば習近平体制下の資本主義中国--これが、今の現実なのかもしれないと思った。

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