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曾野綾子さんがアフリカで下痢せず過ごせたスゴイ鍛練法

人間にとって病いと何か

 健康ブーム、健康志向がとりざたされるようになって久しいが、病気や不調知らずに長寿をエンジョイ―という人生は考えにくい。曾野綾子さんは近著『人間にとって病いとは何か』(幻冬舎)で「病気をしない人はいないから、正常と病気の間を、心と体がさまよい歩くのが人生なのだろう」と指摘した。本書は、心と体の「コントロールの足しになれば」というエッセイ集。

強度の近視、うつ病、膠原病...でも頑丈

 10代の初めに都内で空襲にさらされた戦時下でのことや、50代から頻繁に訪れるようになったアフリカなどの途上国での体験などをもとにした17話が収められている。文芸誌「小説幻冬」の創刊号(2016年11月号)から18年4月号まで掲載された連載を加筆修正して単行本化された。

 著者は、その連載まではさまざまな作品で「精神の健康や症状については饒舌」だったものだが、肉体そのものの健康と人生についてはほとんど語ることがなかったという。それは、重大な病気をしたことがなかったというのだが、いくつかのエッセイのなかで触れられる自らの病歴は、確かに重大なものはないようだが、数々の症状を体験している。

 子どものころは「遺伝性の強度の近視」であり、目に関してはその後、中心性網膜炎にかかり、これが引き金にとなって50歳を前にして後極白内障が起きたという。子ども時代にはまた「手足の冷たい娘」であり「霜焼けはできなかったが、冬、指にはあかぎれが絶えなかった」。40代の終わりごろから肩凝りに悩まされ、50代のとき結節性紅斑という病気に見舞われ「老年を前に、シューグレン症候群という膠原病が見つかった」。また、30歳を前にして軽いうつ病になったとも述べている。

 だが著者は「人間が病気がちかそうでないかは、生まれつきの資質の結果が多い。私はありがたいことに、親から頑丈な体質を受け継いだ」と感謝する。遺伝という「強度の近視」については、黒板が見えなくても隣の席のクラスメートがノートを見せてくれて「その場をしのげた」とこともなげだ。

 「人は、そのような日常的なことから、自分の体力・知力の限界を知り、その範囲で生き方の設定をするようになる。そして必ず自分より能力のある人がいることも知って、謙虚にもなる」

ハエがたかったものを食べて準備

 物資が不足した戦時下の子ども時代、風呂に入れず劣悪な衛生環境のなかで暮らすことを余儀なくされ、泥だらけの手で携行していたおにぎりを食べる生活を体験。その経験があったからこそ、アフリカの奥地にも分け入る決意ができた。途上国行きを重ねるようになると、出発の1、2か月前から、お金をいじった手で食事をしたり、ハエがたかったものを食べるなどして雑菌が体に入る暮らしに慣れるようにしたという。その成果か、エジプトに団体で出かけた際、同行者の大半が下痢などの症状に見舞われたときも大丈夫だった。

 プロ野球のある投手がシーズンオフに、生肉や賞味期限切れの食品を食べて胃の鍛錬をしていると報じられ、合わせて、リスクだけで効果なしとする医師らのコメントが伝えられた。本書によると著者の準備行動は、医師によっては、医学的には意味があるかもしれないと言ったという。

 著者の作品に共通したものだが、独特の強い持論がベース。病気に振り回されず、謙虚に共生するなかでコントールすることを訴える、健康ブームとは一線を画した「病気論」。

  • 書名 人間にとって病いと何か
  • 監修・編集・著者名曾野綾子
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2018年5月30日
  • 定価本体780円+税
  • 判型・ページ数新書・211ページ
  • ISBN9784344985018
 

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