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「下町」のランドマークじゃなかったスカイツリー

スカイツリー 東京下町散歩

 開業して6年目を迎えた東京スカイツリー。足元にはショッピングモール「東京ソラマチ」と、映画館や水族館などレジャー施設を備えたスカイツリータウンがあり、都内でも有数の観光名所、休日のお出かけスポットになっている。この夏休みも賑わうに違いない。

 本書『スカイツリー 東京下町散歩』(朝日新聞出版)は、ツリーが既に偉容を現しオープンを待っていた2011年10月に刊行。東京東部のいわゆる下町は歴史的に4段階に分かれて発展、拡大してきたという「下町四段階説」を唱える著者が、スカイツリーを契機に注目の高まりが予想される「第三」「第四」のディープなエリアを案内したものだ

もう一つの「世界一」があった

 スカイツリーは周囲の街にも変化をもたらし、本書でレポートされているスポットのなかには既に姿を消していたり、新たなランドマークに替わっているものもある。古地図片手に旧所名跡を訪ねるウオーキングがちょっとした流行になっているという。本書ではスポットの写真も豊富に収められており説明も丁寧で、こちらをガイドにした下町歩きも十分楽しめそうだ。

 下町に初めて登場したランドマークといわれる東京スカイツリー。その立つ場所は、著者の四段階説によれば「第三下町」だ。四段階説のオリジナルは、本書刊行の20年以上前に、著者が編集長を務めていた情報誌で展開したもの。江戸~明治時代に開発、発展したのが第一下町(神田・日本橋)、第二下町(上野・浅草)で、その後の人口増加、震災、戦争などを経て下町エリアは農村だった東部に拡大する。これらの下町はもともと山手に対するものだったが、第三下町(墨田区、江東区、荒川区、北区)、第四下町(足立区、葛飾区、江戸川区)は、いわば「昭和の下町」として発展したものだ。

 著者が本書で案内するのは「昭和の下町」。次世代的なスカイツリーの姿は、昭和の面影を残す数々のスポットからものぞめる。表紙をはじめ、それらを同じフレームに入れた写真が数々掲載されているが、いずれも、ミスマッチ感を漂わせながら親しみも感じさせる不思議な雰囲気を醸し出している。

 スカイツリーは「世界一」の電波塔だが、その足元のエリアは実は、いち早く「世界一」を達成した人物が誕生した場所だ。世界一のホームラン王、王貞治さん。少年時代をこの地で過ごし、同じ墨田区内の錦糸公園や隅田川の対岸にある野球場で練習をしていたが、後に巨人でコーチとなる荒川博さんと出会い、世界に名前が知られる存在となったものだ。錦糸公園など今も残る「王選手」ゆかりの場所からもスカイツリーが見える。

 本書ではほかに、周辺にまだ残る昭和の面影豊かな商店街を訪ね、モダン建築が数々残る両国や、いくつもの名品玩具が生まれた葛飾の街、テレビの深夜番組でカオスぶりが話題になった小岩や北千住などにも足を伸ばす。今確認すると、たとえば、両国のモダン建築の建物のなかには姿を消したものもある。「平成」の終わりが見えてからか、いっそう「昭和」がメディアなどでもてはやされている。ご覧になりたいなら早い方がいいかもしれない。

  • 書名 スカイツリー 東京下町散歩
  • 監修・編集・著者名三浦展
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2011年10月13日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書・200ページ
  • ISBN9784022734204

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