読むべき本、見逃していない?

関学・小野ディレクターの「ロウソクの火」理論を思い出す

  • 書名 ジュニアスポーツコーチに知っておいてほしいこと
  • 監修・編集・著者名大橋恵、藤後悦子、井梅由美子(著)
  • 出版社名勁草書房
  • 出版年月日2018年6月 9日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数四六判・192ページ
  • ISBN9784326851959

 スポーツの世界でいろいろな問題が起きている。日大アメフトの例でも分かるように、大学生になっても監督やコーチに反抗できない。高校でも大阪・桜宮高校バスケットボール部で起きた自殺事件が記憶に新しい。年齢が下がると、水面下でもっとややこしいこともありそうだ。

 本書『ジュニアスポーツコーチに知っておいてほしいこと』(勁草書房)はそういう意味で、タイムリーな一冊といえる。子どもの発達を理解し、本当の意味で教育的な効果を生む指導をするために必要なことを、心理学の立場から解説している。

親の収入格差の影響が及びつつある

 本書で扱う「ジュニアスポーツ」は、幼児や小学生を対象としたものだ。今の教育制度の中では、中学生以上のスポーツは課外活動として制度化されているが、それより下の世代については、スポーツへの参加は個人的なものになる。とはいえ、スポーツ少年団は全国で3万6000もあり、類似の組織も少なくない。さらには民間のスポーツクラブも無数にある。

 小学生に人気があるのは、スイミングスクール、サッカー、野球、空手、体操教室、テニス、バスケなど。スポーツかどうかは微妙だが、ダンスも女子には人気だ。ベネッセの調査によると、4歳児では29.1%、5歳児では49.3%が定期的にスポーツ活動に参加しているという。指導者は常に全員が、専門教育を受けているわけではない。ボランティアも少なくない。

 本書によれば、ジュニアスポーツにも、親の収入格差の影響が及びつつある。年収が800万円以上の家庭と、400万円以下の家庭では、子どものスポーツ参加率は20%近い差がある。こうした子どもとスポーツを巡る最近の事情を、先行の研究や資料などをもとに手際よく説明している。親も常識として知っておきたい知識だ。

 著者の大橋恵 、 藤後悦子、井梅由美子の3氏はいずれも心理学の教員。

子どもにとって過剰な要求になっていないか

 勉強もおなじだが、スポーツにも「リハーサル効果」というものがあるそうだ。繰り返すことによる上達。これは小学校高学年になって自覚されるものだという。だから余り早くから、うるさく尻を叩いても、子どもの意欲は上がらない。

 第二章では「ジュニアスポーツの問題点」を取り上げている。一つは、早い時期から専門的トレーニングをすると、初期の上達は早いが、やがて停滞する。燃え尽き症候群にも陥りかねない。また、週14時間以上練習している子どもの傷害発生率は、週4時間の子どもの約3倍になるという。米国のジュニアでは、シーズンごとに異なるスポーツをさせるシーズン制を採用しているそうだ。特定の種目で負担が過重になることを避けている。

 本書は、「大人が求めていることが子どもにとって過剰な要求になっていないか、強制になっていないか、見直す姿勢がとても大事です」と強調する。もちろん体罰などは論外だが、指導者の側が、体罰を受けて育っているケースが少なくない。世間の風潮としても「容認論」が一部である。

心理学を応用した接し方

 日大アメフト問題は、いろいろな意味でスポーツと教育、指導の在り方を考えるうえで大きな教訓を残した。とりわけ際立ったのは、日大と、被害者になった関西学院大との「指導方針」の大きな違いだった。

 日大は勝つために「ルール違反」を強制した。対する関学大は、小野宏(ひろむ)ディレクターが語った指導者としての心構えにも注目が集まった。

 
 「我々がコーチとして一番大事なのは、選手の中に芽生える楽しいという気持ち、これは『ロウソクの火』みたいなもので、吹きすぎると消えてしまいますし、大事に、少しずつ大きくしないといけない。そっと火を大きくするような言葉も大事でしょう。内発的に出てくるものをどう育てるかが、コーチにとって一番難しい仕事だという風に思っています」

 多くのジュニアスポーツのコーチも同じ思いだろう。本書では、子どものモチベーションを高めるにはどのような言葉をかけるべきか、丁寧な実例が紹介されている。著者らが専門とする心理学を応用した接し方だ。ここまで完璧にやるのは難しくても、参考にはなりそうだ。

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