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ばかばかしさを保証、大相撲をパロったミステリ

中相撲殺人事件

 本書『中相撲殺人事件』(南雲堂)の「中相撲」とは何かを語る前に、本書は『大相撲殺人事件』『中相撲殺人事件』『小相撲殺人事件』と続く一連のシリーズの一作であることにまず触れなければいけないだろう。なんとも人を食ったタイトルだとお思いだろうが、まさにそう。ここには大相撲とミステリへの壮大なパロディが仕掛けられているのだ。

 著者の小森健太朗さんは、近畿大学文芸学部准教授のかたわらミステリの創作と評論を続けている。1982年に「ローウェル城の密室」が史上最年少の16歳で江戸川乱歩賞最終候補となり話題に。2004年に発表した『大相撲殺人事件』が近年ネットで「奇書」と話題となり高値がつき、文春文庫版も昨年(2017年)になって増刷がかかった。

 その『大相撲殺人事件』を簡単におさらいするとこうだ。アメリカ人の青年マークは、日本の大学に留学しようとして、間違えて大相撲部屋に入門する。あっという間に幕内まで昇進するが、いくつもの殺人事件に巻き込まれる。土俵爆殺事件、頭のない前頭、対戦力士連続殺害事件、女人禁制の密室、黒相撲館の殺人......タイトルを並べるだけで、その奇想天外ぶりがわかるだろう。「女性は土俵に上がることができない」、「取組が決まった力士が休場した場合、相手は不戦勝になる」といった相撲界のしきたり、決まりが作品の要になっている。

 大勢の力士と行司1人が殺害されるというばかばかしさが「奇書」ともてはやされたゆえんだが、本書『中相撲殺人事件』では、中学生が取る相撲を強引に「中相撲」と呼び、「中くらいの事件」として前作6話のモチーフをそれぞれ継承して書いている。

 マークこと「幕ノ虎」、ずっと幕下どまりの「御前山」、親方の娘で高校生の聡子が探偵役をつとめる構造も前作同様だが、「大相撲」から「中相撲」にスケールダウンしたせいか、今回大相撲力士は一人も死なない。とは言え、三人の軽妙なやりとりと「中くらいのトリック」がもたらす読書の楽しみは前作同様だ。むしろたいした被害がない分、不思議な「多幸感」につつまれる。 少しだけネタを披露すると、「伝説の最強力士・雷電降霊」「闇賭博の船上相撲」。これだけでもトンデモなさが伝わってくるだろう。

 次作『小相撲殺人事件』もすでに文春電子版で配信中だ。事件の規模も大中小の順で小さくなる予定だという。小森さんは「週刊ポスト」(2018年7月20・27日号)の著者インタビューで「エラリー・クイーンのXYZ(の悲劇)みたいなものです」と答えている。われわれも「大中小」の順番に読むべきか。「こんなミステリがあったのか」と驚くべき読書体験を味わうことができるだろう。 

  • 書名 中相撲殺人事件
  • 監修・編集・著者名小森健太朗 著
  • 出版社名南雲堂
  • 出版年月日2018年6月 5日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・307ページ
  • ISBN9784523265719
 

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