本を知る。本で知る。

恐竜は無理だがマンモスは再生できる!

マンモスを再生せよ

 本書『マンモスを再生せよ』(文藝春秋)の帯に「FOXで映画化決定」とあるのを見て、フィクションかと思ったら、これは純然たるノンフィクション。ハーバード大学医学部教授で「ヒトゲノム計画」の発案者の一人でもある遺伝学者ジョージ・チャーチが進める「ケナガマンモス復興プロジェクト」を描いたものである。まず映画が待ち遠しいほど面白いと断言しよう。

 著者のベン・メズリックはハーバード大学卒業後、『悪魔の遺伝子』(ハヤカワ文庫)でデビューした小説家。映画「ソーシャル・ネットワーク」の原作となった『facebook』(青志社)などの著書があり、巧みなストーリーテリングは、本書でも健在だ。科学ノンフィクションだが、物語風の語り口で読ませる。フロリダの田舎で育った失読症の少年ジョージが1964年、ニューヨーク万博を見物したのを機に科学にめざめ、名門私立高校、大学と遺伝子学のとりことなり、ハーバード大学の博士課程に進んだことが人生の転機となった。

 革命的なゲノム解読技術を発明し、「ヒトゲノム計画」は企画から15年とたたず2003年に完了、「合成生物学」という新しい分野にチャーチは挑んだ。バクテリアなどのゲノム配列を操作し、有益なものに作り替える学問だ。2008年、ニューヨークタイムスの科学記者から「マンモスをよみがえらせることは可能でしょうか?」という電話を受けたことが、プロジェクトの出発となった。

 チャーチは『ジュラシック・パーク』をひきあいに出し説明する。なぜ恐竜のクローンは不可能なのか? 恐竜の化石に遺伝物質は含まれていないからだ。だが、ケナガマンモスは違う。絶滅してまだ2、3000年。新鮮な状態で冷凍保存されていた。さらに凍って劣化したサンプルを使わなければ成功の確率は高まる。ケナガマンモスの遺伝子コードだけを取り出し現代の近縁種であるゾウに移植したら? 必要なのはマンモスのDNAサンプルだ。

マンモスのいる「氷河期パーク」

 ここで舞台はロシアに移る。シベリアに長年住んで永久凍土の研究をつづけるセルゲイ・ジモフ親子がいる。「永久凍土が解けると大量の二酸化炭素とメタンが放出され、地球温暖化が急速に進行する。かつては大型草食動物によって低温が保たれていた。マンモスの代わりに戦車を使って永久凍土の温度を平均8度下げた」というジモフの講演を聴き、チャーチはマンモスを復活させる大義名分を得たと思った。マンモスのいる「氷河期パーク」をつくり地球温暖化を食い止めるのだ。

 いよいよプロジェクトが動き出す。中国からの女子留学生ルハン・ヤンがチームリーダー。車の元セールスマンの遺伝子工学技師ジャスティン・クインら4人の若者が集められた。CRISPR(クリスパー)を使ってマンモスの遺伝子をゾウの細胞に書き込む、それに成功したら幹細胞の作業へ進む、とロードマップは明らかになった。

 ところが幹細胞は作れなかった。ゾウはがんにならないことが知られている。そのメカニズムと関連していると思われた。プロジェクトは壁にぶつかった。その突破口となったのが、京都大学の山中伸弥教授のiPS細胞だった。山中教授はまさに幹細胞をつくったのだった。その技術と発想が役に立った。

 さて、現在プロジェクトはどこまで進んでいるのだろうか? ケナガマンモスのヘモグロビン、皮下脂肪、耳の細胞、尾の細胞などの遺伝子が発現していることが確認された段階だという。まだまだ課題は多いが、今世紀の後半になるだろうと関係者は語っている。

 マンモス復活は競争になっている。ヒトの胚のクローン化に成功したとねつ造論文を発表してソウル大学教授を失職した韓国人科学者のグループが復権をかけ、マンモスのクローン作製で再起を狙っている。このあたりもじっくり書き込まれており、映画では「悪役」的な存在になりそうだ。

 そういえば、フェイスブックの創始者、マーク・ザッカーバーグもハーバード出身で、著者の本では好意的に描かれていた。このマンモス復興プロジェクトへの批判も科学界ではあるようだが、本書は「未完の成功譚」という形でチャーチを讃えている。「ハーバード出身者による身内誉め」という可能性はないだろうか、人類の未来がかかったテーマなだけに、その点が気になった。

 なお、「合成生物学」「CRISPR(クリスパー)」について、本欄では2冊を紹介している。興味のある方は参照してほしい。

   
  • 書名 マンモスを再生せよ
  • サブタイトルハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦
  • 監修・編集・著者名ベン・メズリック 著、上野元美 訳
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年7月25日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数四六判・301ページ
  • ISBN9784163908793

オンライン書店

 

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?