本を知る。本で知る。

「大学生はどう生きるか」・・・手取り足取り教えてくれる

カフェパウゼで法学を

 国立大の先生は、今どきここまで懇切丁寧な解説本を出さねばならないのか。本書『カフェパウゼで法学を―対話で見つける<学び方>』(弘文堂)を手にしての率直な感想だ。

 あちこちに漫画イラストが散りばめられ、内容は横書きの対話形式。学生たちの疑問に答えながら「学び方」についてのレクチャーが進む。

ドイツ語で「コーヒーブレイク」のこと

 著者の横田明美さんは1983年生まれ、2006年東大法学部卒というから、まだ30代半ばにさしかかったばかり。千葉大学大学院社会科学研究院准教授を務める。かなりの気鋭の法学者のようだ。すでに専門分野では『義務付け訴訟の機能』(弘文堂)を出しており、このほか『ロボット・AIと法』(有斐閣)なども分担執筆している。

 本書のタイトルになっている「カフェパウゼ」とは、ドイツ語で「コーヒーブレイク」のことだという。お茶をしながら気楽に学生たちと「学び方を見つける」ための方策を考える。「学問上の悩みも、生活上の困りごとも共有しながら対話」というから、カウンセラーも兼ねるような有難い先生だ。千葉大の学生は果報者と言わねばなるまい。

 本書の舞台回し役は、明日香さんと進吾くん。大学1年からの4年間に抱えた悩みを、後輩のかすみさんと一緒に「ぱうぜセンセ」の研究室で相談する。その「対話」と、内容について解説する「本文」がセットになり、項目ごとに、「まとめ」や、「コラム」「work」も用意されている。法学部の学生が主たる対象だが、それ以外の読者も拒まない。難しいところは読み飛ばして結構、と親切だ。

コペル君と叔父さんとの対話を思い出す

 思えば法学関係では、かつては泰斗と呼ばれる大先生が威厳を保っていた。著書はたいがい箱入り本やハードカバー。それらが司法試験のための参考書としてもそのまま使われていた。しかしいつのまにか様変わり。今や法律書もまるで高校受験の参考書のような多色刷りが当たり前らしい。東大生協の書店でさえ、15歳の少年コペル君が主人公の『君たちはどう生きるか』が売り上げベストテンに居座り続けている時代だ。

 そういえば、『君たち』はコペル君と叔父さんとの対話が軸。本書は配役(構成)が似ている。コペル君役の年齢がちょっと上がり、叔父さんの代わりに、妙齢の「ぱうぜセンセ」が登場する。

 「センセ」はとっても賢いので、「第一部 1年生編」からアドバイスが的確だ。「答えはひとつじゃないんですか?」という質問を出させて、「高校までの勉強と大学での学び方における考え方の違い」について説明する。特に法学は、一つの事案に対立する答えがある世界だから、本書のすべてはここに集約されていると言っても過言ではないかもしれない。

 大学は、「未知の事柄にアプローチするための下準備をするところ」ということが繰り返し強調されている。高校までは「知識の蓄え」が主。大学からは「これからどうするか自分で考えていくための下地になるような学び方をしよう」と呼びかける。たしかに「未知の事柄」には、まだ「正答」が用意されていないことが少なくない。その時に「思考停止」にならないようなタフさを、大学時代に身に着けよう、というわけだ。

手取り足取り、至れり尽くせり

 では大学の最上級生、4年生にはどんな悩みがあるか。ちゃんと本書には「卒論編」や「進路編」なども用意されている。手取り足取り、至れり尽くせりだ。学年ごとに「レポート課題の目的とは?」「考えを深めるためのコツ」「インプットの心がけ」「少人数ゼミのススメ」「社会を変えるには?」など20項目以上のテーマについて学生とのやりとりが続く。15歳のコペル君じゃないのだから、そんなことは「自分のアタマ」で考えたら、といいたくもなるが、これが昨今の学生のすがたなのだろう。

 もちろん勉強は大学時代で終わるものではない。そういえば『君たち』の著者、吉野源三郎さんについて、直に薫陶を受けた山口昭男・岩波書店前社長の思い出話がJ-CASTに出ていた。それによると、吉野さんは「大人になってもまだまだ勉強して、自分を見つけていかなければならない」と強調していたそうだ。その通りですね。

  • 書名 カフェパウゼで法学を
  • サブタイトル対話で見つける〈学び方〉
  • 監修・編集・著者名横田 明美 著
  • 出版社名弘文堂
  • 出版年月日2018年7月 5日
  • 定価本体1980円+税
  • 判型・ページ数四六判・310ページ
  • ISBN9784335357336
 

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