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夫婦・恋人間に「秘密」はある! 林真理子の短篇集

秘密

 本書『秘密』(ポプラ社)は、「秘密」をテーマにした林真理子の短篇集。2008年の発刊だが、17年にTSUTAYA三軒茶屋店の「仕掛け番長」こと栗俣力也氏がポプラ社にオファーをし、漫画家・いくえみ綾のイラストのカバーに替え、「このたった5人しかいないテーブルに、関係をもったカップルが4組もいる。」のコピーを前面に出したところ、売上を伸ばしているという。

 「お別れパーティー」「二年前の真実」「女優の恋人」「彼と彼女の過去」「土曜日の献立」「二人の秘密」「秘密」「実和子」の8作品を収録。どの作品にも、後味の苦い秘密が隠されている。

 サラリーマンの俊彦は、女優の衿子を恋人に持つ。「俺は並の男ではないから、衿子と愛し合うことが出来る」と自分に言い聞かせ、優越感と「甘美な拷問」に酔う俊彦。クリスマス、衿子に指輪を送ろうと俊彦はホテルへ向かう。(「女優の恋人」)

 2組の夫婦とシングルマザー、計5人による食事の席でのこと。香苗と栗田が元恋人同士であることは周知の事実だったが、終盤、「なんて下品なの。たった五人しかいないテーブルなのに、寝たカップルが四組もいるのよ」と栗田の妻が泣き出す。(「土曜日の献立」)

 常雄は病院長という立場上、ゆすりや脅しの類は経験があった。だが、今回現れた坂田という男は、常雄の妻と不倫関係にあると言い、その証拠写真を買ってほしいと要求する。常雄は妻を守るため、人生最大の秘密をつくり、それを夫婦で半分ずつ背負うことを決める。(二人の秘密)

 著者はあとがきで「私はどうも純愛というものが書けない。どんなに愛しあっている二人でも、駆け引きがあり、心の闇があるというのがかねてよりの私の持論である。...このコレクションでは、作家としての私の意地悪さが最も濃く出ているはずだ」と記している。読んでいて感じる、どことなく黒っぽいものは、著者の言う「意地悪さ」だったのかと納得する。

 解説をした唯川恵は、秘密について「持ったとたん...『話したい衝動』という副作用もセットになっている。この副作用は強烈で、人は秘密を持った限り戦い続けなければならない。まるで罰を受けるみたいに」と記している。これほど重たい「秘密」を持つことが、大人の証のようにも思えてくる。

 著者の林真理子は、コピーライターとして活躍した後、エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーに。『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞を受賞。『白蓮れんれん』で柴田錬三郎賞、『みんなの秘密』で吉川英治文学賞を受賞。エッセイ、恋愛小説にとどまらず、児童書、NHK大河ドラマ「西郷どん」の原作も手がけるなど、多方面で活躍している。

 BOOKウォッチでは、栗俣力也氏について『たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に』(祥伝社)の現案者として紹介した。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 秘密
  • 監修・編集・著者名林 真理子 著
  • 出版社名株式会社ポプラ社
  • 出版年月日2008年6月 5日
  • 定価本体540円+税
  • 判型・ページ数文庫判・224ページ
  • ISBN9784591103487
 

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