読むべき本、見逃していない?

もう笑うしかない、浮気がばれてパリに逃げたが......

  • 書名 もう「はい」としか言えない
  • 監修・編集・著者名松尾スズキ 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年6月30日
  • 定価本体1450円+税
  • 判型・ページ数四六判・204ページ
  • ISBN9784163908588

 劇団「大人計画」を主宰する松尾スズキには、エッセイや小説を書く「もの書き」としての顔もある。2010年には小説『老人賭博』が芥川賞にノミネートされた。本書『もう「はい」としか言えない』(文藝春秋)は、受賞は逸したが、今期(2018年上半期)再び芥川賞候補となった表題作ともう一つの中編「神様ノイローゼ」を収めた新作である。

 不条理な悪夢のような展開をする松尾の演劇と同じようなテイストを味わえる小説だ。俳優の海馬五郎のもとに「世界を代表する5人の自由人のための賞」と銘打った「エドゥアール・クレスト賞」というフランスの賞を受賞したという知らせが入る。海馬が若いころ小劇場劇団のために書いた戯曲「椰子の木の下の小人」を留学中に偶然見て、いまや実業家として成功したクレスト氏が評価したらしい。

 賞金賞品はわずかばかりだが、旅費と滞在費は支払われる。「受賞のためのワークショップ」に参加し、授賞式に出席するのが正式な受賞の条件だ。飛行機が嫌いで、外国人が怖いという海馬だったが、どうしてもパリに行きたい訳があった。

 前の妻との離婚から8年たって再婚した海馬は浮気がばれ、「2年間、仕事中でない限り、外出先からスマホで1時間おきに背景を含めた自撮りの写メを送ること、そして毎日妻とセックスすること」を条件に離婚を免れたのだった。もう半年そういう生活が続いていた。窒息寸前だった。パリに行くために通訳の男を同行することにしたが、その男が悪夢の始まりだった。

 パリに着いてからはドタバタの連続。5人いた受賞候補者は一人減り、また一人減り、そして「受賞のためのワークショップ」が始まる。ここから先は実際に読んでいただきたい。

 本欄では昨年、松尾のエッセイ『東京の夫婦』を紹介した。松尾が前の結婚の破局とその後の再婚生活をつづったものだ。それを下敷きに本書を読むと、フィクションとわかっていても海馬のうろたえぶりが笑える。「痩せて黒縁の丸眼鏡で顎のしゃくれた特徴的な顔をしていて、それが滑稽に見えたり知的に見えたり不気味に見えたりする」ので、「マッドサイエンティストや飛び道具的な役割」で映画やコマーシャルに出演するという海馬は、松尾が描いた自画像のようでもある。

 もう一作の「神様ノイローゼ」は、西日本新聞に連載した小説「少年水死体事件」を改題したもの。こちらの主人公も海馬五郎。松尾自身の福岡で育った幼年、少年時代がモチーフのようにも思える。合わせて松尾ファンには垂涎の作品となるだろう。

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