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沖縄戦で日本人に投降を呼びかけていた意外な人

  • 書名 ドナルド・キーン自伝
  • 監修・編集・著者名ドナルド・キーン 著、角地 幸男 訳
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2011年2月 1日
  • 定価本体762円+税
  • 判型・ページ数文庫・363ページ
  • ISBN9784122054394

 日本文化の研究者として文化勲章も受章したドナルド・キーン(1922年~)さん。その生い立ちから三島由紀夫らとの交遊まで語ったのが本書『ドナルド・キーン自伝 』(中公文庫)だ。アメリカ人のキーンさんがなぜ日本文化に魅せられたのか。外国人の日本文学研究者として傑出した存在になったのか。

 加えて本書では太平洋戦争当時のことが詳しく書かれており興味深い。キーンさんは、日本がアメリカと戦っていたとき、アメリカ側の日本語通訳として参戦していたからだ。

飛び級をくり返した神童

 外国人が日本語を学ぶ。しかも日本文学や文化の研究者になり、多数の著書を日本語と外国語で刊行する。きわめて大変なことだ。それがキーンさんにできた大きな理由は、単純に言えば、「神童」だったから。

 ニューヨークで生まれたキーンさんは、小中高を通じて常に一番で、飛び級をくり返した。通っていた高校は「驚くほどたくさんのノーベル賞受賞者」を輩出していた名門だった。16歳でコロンビア大学に入学、同級生よりも2歳若かった。暗記力が抜群。数学も得意で、数学の天才と言われた同級生よりも成績が良かった。語学はこれまでにたぶん、8、9か国語は勉強したという。

 日本でも、イスラム学者の井筒俊彦氏などは語学の天才と言われたが、キーンさんも、欧米には少なくない、そうした語学の天才の一人だったのだろう。

 さらに、繊細な感受性がキーンさんを日本文学に惹きつけた。たまたま書店のゾッキ本コーナーで手にした英訳の『源氏物語』に心を奪われる。日本は「中国の侵略者」だと思っていたが、『源氏』を通して別な一面を知った。

玉砕日本兵の日記を解読

 すでにフランス語、ドイツ語、ギリシャ語、ラテン語を学び、中国人の友人から中国語の手ほどきも受けていたキーンさんは、新たに日本語も学び始める。19歳の時だ。ちょうど日本の真珠湾攻撃で日米戦争の戦端が開かれた。兵士になりたくなかったキーンさんは、海軍の日本語学校が翻訳と通訳の候補生を養成していることを知って応募する。

 11か月の学生生活で日本語がメキメキ上達。草書も読めるまでになった。卒業生総代として日本語で30分の挨拶。1年前までは一言も日本語がしゃべれなかったというから、やはり神童だ。

 日本人との最初の本格的な出会いは、「日記」だった。米軍はガダルカナルで日本人兵士が遺した日記類を押収、それをキーンさんら翻訳担当者が解読した。平時は検閲を念頭に愛国的な記述が続くが、玉砕が間近になると、「本当の思い」がつづられる。なかには最後に英文で、「戦争が終わったらこの日記を家族に届けてほしい」と書いたものもあった。

 その後キーンさんは、アッツ島に行って押収文書の解読、さらに米軍が占領したフィリピンへ。レイテ島での決戦に敗れた多数の日本人捕虜がいた。そして沖縄に向かう。途中で「神風特攻隊」に襲われたが、特攻機は隣船のマストにぶつかり、命拾いした。

 ガダルカナル、アッツ、レイテ、沖縄と、日本をじりじりと追い詰めていく米軍。キーンさんも通訳としていよいよ最前線に躍り出る。

捕虜を尋問する様子、新聞に掲載

 1945年4月1日。米軍が沖縄上陸。洞窟に隠れた民間人が多かった。キーンさんは洞窟を片っ端から歩き回り、中に誰かいないか呼びかける役もした。沖縄戦で良く知られているシーンだ。

 多数の日本人捕虜の中には、記憶に残る若い将校もいた。学徒兵だった。彼は、自分がこのまま生き続けなければならない理由が何かあるだろうかと聞いてきた。キーンさんは答えた。生きて、新しい日本のために働くようにと。キーンさんが現場で捕虜を尋問する様子は、当時の海軍の新聞にも写真付きで掲載されている。

 やがて沖縄から約1000人の捕虜を載せた船で、ハワイに戻る。半分は日本軍兵士と沖縄人防衛隊の民兵、あとの半分は朝鮮人の労働者だった。こうして、アメリカ海軍の通訳として日本と対決していたキーンさんの「戦争」は終わり、学究生活に戻る。

 それにしても、沖縄の洞窟入口で、投降を呼びかけていた米軍通訳が、のちに日本の文化勲章を得ることになろうとは、誰が想像できただろう。本書では戦後になってからの日本の文学者や研究者たちとの心温まる交流もつづられているが、やはり生々しいのは、このシーンだ。

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