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「江戸時代の科学技術」は世界レベルだった

江戸の科学者

 江戸時代の偉人伝というと、徳川歴代将軍や幕閣、幕臣、大名らが主であり、学者として知られる人物も、儒学者、国学者ら、幕政と関わりが深い文系が目立つ。理系の研究者はいなかったかといえば、そんなことはない。鎖国により海外の最新事情についての情報が閉ざされていたなかで、同時代の世界水準に匹敵する異才の人たちが少なくなかったという。

「非常の人」平賀源内

 本書『江戸の科学者』(平凡社)は、これまであまり深く掘り下げられていなかった、江戸時代の科学者11人について、その業績やエピソードを取り上げ、いわば「江戸科学の魅力」を追ったもの。著者は、科学史・技術史の分野での著述・翻訳のほか、別名義で小説家としての顔を持ち、本書も物語仕立てで人物が語られている。

 著者が「相当の水準に達し、一定の世界性すら獲得していた」という江戸時代の科学。それを担った人物として最も名前が知られているのは平賀源内だろう。現代では、科学者というより「土用丑の日」のコピーライターとしての方がおなじみか。マルチタレントぶりは当時からのトレードマークのようで、親交深かった蘭学者の杉田玄白は「非常の人」と呼んでいる。

 コピーライターで物語作者であり、日本初の西洋画家でもある源内。理系の科学の分野では、博物学者、化学者、鉱山技師、電気学者としての顔を持つ。ほかに、現代の仕事にたとえれば、起業家、イベントプランナー、技術コンサルタントとして多忙な日を送っていたこともある。

 源内の科学的業績といえば「エレキテル」。破損していたものを入手し、この修理に成功したものだ。復元したのは入手してから7年後。見世物は人気になったがすぐに熱は冷め、源内自身もあきっぽい性格なため間もなく放置状態に。電気治療などの実用面では普及しなかった。

「解体新書」に大いに貢献

 源内は高松藩士だった若いころから発明の才があり、複数回の長崎留学で、医薬に関する本草学のほか、オランダからもたらされるなどしたさまざまな先進技術に触れマルチな活躍をするようになった。時代は八代将軍、徳川吉宗の治世で老中、田沼意次が先進的な産業政策を推し進めていたところ。著者はこの殖産興業の気運が源内の活躍を後押ししたとみる。源内は長崎などで修めた知識や技術を生かして鉱山開発、陶器産業、織物産業の指導に当たったが、著者はそれらがいずれも「意次の政策の具体化とみられる」と評している。

 本書によると源内は、杉田玄白らによる「解体新書」にも大いに功績があった。訳書をやっとのことで完成させた玄白らに源内は画才を見込まれ挿絵を頼まれる。しかし自らは多忙を理由に固辞。代わりに、鉱山開発を要請され赴いた秋田藩で西洋画法を授けた同藩藩士の小田野直武を推薦した。直武の挿絵はそのリアルさが「解体新書」の最も重要な一部と賞賛され、著者は「翻訳に加われなかった源内だが、直武の師として、その紹介者として十分すぎる功績を挙げたと言えるだろう」と述べている。

 源内については本書ではほかに、文才をいかして、男色を提供する茶屋のガイドブック「男色細見」を著していることや、その最期を、人を殺して自首した獄中で迎えたことなどを紹介。手がけた事業の大半が実は失敗に終わっていることにふれ「早すぎた近代人であり、明治人であったのだろう」と結んだ。

 本書ではほかに、和算の大家、関孝和、シーボルトも絶賛した博物学者、宇田川榕菴、伊能忠敬を育てた高橋至時、コレラから日本を救った緒方洪庵、東芝の祖となった田中久重など、日本の科学史を変えた江戸時代のエンジニアらを紹介。高橋至時の時代に、惑星の運動に関する法則である「ケプラーの法則」にたどりついていたことなどの意外な実績のほか、それぞれの波乱万丈な生涯にスポットを当てている。

 BOOKウォッチでは類書で『江戸時代のハイテク・イノベーター列伝』を紹介済みだ。

  • 書名 江戸の科学者
  • サブタイトル西洋に挑んだ異才列伝
  • 監修・編集・著者名新戸 雅章 著
  • 出版社名平凡社
  • 出版年月日2018年4月13日
  • 定価本体820円+税
  • 判型・ページ数新書・256ページ
  • ISBN9784582858754
 

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