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吉田拓郎さんの名曲「落陽」を思い出す

深夜航路

 タイトルはおそらく沢木耕太郎さんのロングセラー『深夜特急』を念頭に置いたものだろう。沢木さんの旅は、日本から遠くロンドンを目指したものだったが、本書『深夜航路』(草思社)は日本のどこかの港から、日本の別の港を目指すものだから、いささか地味だ。しかも副題にあるように、午前0時からスタートする便に絞っているので、いちだんとマイナー感が強まる。

岸壁に接岸した船が煌煌とライトを照らす

 暗闇に浮かぶ連絡船、というイメージの写真が表紙を飾る。本書には現在、日本で運航している深夜便(午前0時~3時発)全14航路のルポが掲載されている。出発風景はどこも替わり映えがしない。岸壁に接岸した船が、煌煌とライトを照らしながら出発を待つ。人の気配は乏しい。

 長時間航路では、「大洗(1:45)→苫小牧(19:45) 商船三井フェリー」「敦賀(0:30)→苫小牧(20:30) 新日本海フェリー」「奄美大島(2:00)→鹿児島(18:50) 鹿児島県十島村」など。非常に短時間なものとしては、「直島(0:15)→宇野(0:30) 四国汽船」「鹿児島(2:30)→桜島(2:45) 鹿児島市船舶局」などが紹介されている。

 「午前0時発以降」を選定基準にしているので、「苫小牧23時59分発八戸行」や「東京・竹芝埠頭を22時・23時台に出港する東海汽船や小笠原海運」は除外されている。吉田拓郎さんが「落陽」で歌った、「苫小牧発仙台行き」のフェリーも、出発時間の関係で残念ながら除外だ。しかしおそらくはどの深夜航路も、あの歌の歌詞のようなアウトローな雰囲気を多少なりとも漂わせているに違いない。

「深夜旅情」「孤愁感」のデータも

 著者の清水浩史さんは1971年生まれ。早稲田大学在学中は水中クラブに属し、国内外を巡る海と島を巡る旅を続けている。現職は編集者・ライター。本欄ではすでに『秘島図鑑』(河出書房新社)を紹介している。

 港や船の中、風景の話だけでは単調になる、ということで、到着後にあちこち足を延ばしている。ちょっとした歴史の薀蓄などは著者の得意とするところだ。多数の写真が収められている。各航路の「深夜旅情」「孤愁感」などのデータも付いている。「徳山(2:00)→竹田津(4:00) 周防灘フェリー」「宿毛(0:30)→佐伯(3:40) 宿毛フェリー」などが高評価だ。

 深夜の船便は、旅客というよりもトラック物資輸送に力点を置いているものが多い。かつてあった深夜便の中にはすでになくなってしまったものもある。著者は夜行列車と同じように、深夜航路もそのうちなくなってしまうかもしれないと心配している。

 港はおおむね都市のはずれにあり、深夜発ともなれば、一段と侘びしい。だからこそというべきか、朝の光が差し込み始めると、にわかに活気づく。気分転換に一度は経験したい旅だ。

  • 書名 深夜航路
  • サブタイトル午前0時からはじまる船旅
  • 監修・編集・著者名清水 浩史 著
  • 出版社名草思社
  • 出版年月日2018年6月18日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・319ページ
  • ISBN9784794223401
 

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