読むべき本、見逃していない?

渋々、恐々移り住んだ米国から2年後、イキイキ帰国

  • 書名 ウィスコンシン渾身日記
  • 監修・編集・著者名白井 青子 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2018年6月20日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数B6判・302ページ
  • ISBN9784344033139

 「グローバル化」が盛んに言われる昨今だが、日本の若者らの海外留学は減少一方という。本書『ウィスコンシン渾身日記』(幻冬舎)は、そんな現代に挑戦するかのように刊行された、いわば「留学記」。夫の海外勤務で、渋々さらには恐々、米国に移り住んだ妻だったが、引っ越し先の地方都市の暮らしに心地よさを覚え、一転、数々の冒険に乗り出していく。交友の範囲が加速度的に多国籍化する展開は、一人グローバル化の物語。実は、いまの時代にふさわしい「留学のすすめ」かも。

夫の転勤、妻の「留学記」

 著者の白井青子(しらいせいこ)さんは一般の主婦。本書の著者紹介には「1984年生まれ。神戸女学院大学大学院修了。夫の仕事の関係で2015年から2年間、アメリカ・ウィスコンシン州マディソンで暮らす」とだけある。夫の「白井君」の転勤で赴くことになったマディソンだが、出発までに米国生活への不安は「爆発しそうなほど膨れ上がり、一人日本に残ろうかとも思い詰めたほど」だったのだが、いまや肩書のメーンは「マディソン暮らし」になるほど。実際に経験した米国での生活の充実ぶりがうかがわれる。

 マディソンはウィスコンシン州の州都。同州は五大湖の南西にあり、乳製品で知られ「米国の酪農州」の異名を持つ。同州の南にはシカゴを抱えるイリノイ州があり、日本から乗り継ぎでマディソンに入るにはたいていシカゴ経由になる。空路で40分ほど。バスを使うと3時間前後だ。本書では、冒頭のほか機会に応じてウィスコンシン州やマディソンの素晴らしさが説明される。

 時期は著者よりかなり前だが、評者もマディソンに2年間ほど住んだことがあり、タイトルの「ウィスコンシン」にひかれて本書を手にとった。マディソン市内に湖が点在しており、大きな二つの湖に挟まれた地峡部に、ワシントンの連邦議会議事堂を小さくしたような州議事堂がそびえ、そこから西にメーンストリートが伸びてダウンタウンを構成。その通りの西端には、ウィスコンシン大学の広大なキャンパスが広がる。本書にある街の描写になつかしさがこみ上げた。

 著者の冒険の舞台は主に、州議事堂近くにある英語学校とウィスコンシン大学。大都市ではなく、外国からたどりつくためには乗り継ぎなどが必要なマディソンだが、英語学校に通う人たちの国籍は実に多彩だ。結婚は何回でもできると言ってはばからないサウジアラビアの女性に驚きながら、宗教や不倫について語り合う一方、チャらい感じの南米の男性らが、母国の混乱から「世界平和」を真剣に願っているのを目の当たりにする。トルコ、韓国などからの女性らとの女子会では、通り一遍だけの情報では分からない、それらの国の実情に接し、国際的理解をあらたにした。

英語学校から大学聴講へ

 クラスメートや講師に恵まれた英語学校では着々と英語力をブラッシュアップ。学ぶ場所をさらに求めてコミュニティカレッジや、ウィスコンシン大学へと、そのフィールドを広げていく。大学では、好きな映画の講義があることを知り、担当教授のもとを訪ね聴講を願い出る。出発前のしり込みがウソのような積極性だ。映画をめぐっては、教授が日本の作品への関心が高かかったこともあり、特別な催しに招かれるなど貴重な経験をすることもできた。

 著者は、当初はやめようかとも考えた米国暮らしが、書籍化するまでに充実したものになったのは、その場所がマディソンだったからと考えている。「人々の人間性も含め、優しくて素朴」な土地柄に迎えられ「人生で最も楽しかったと言っても過言ではない」2年間だったと述べる。慣れない異国で初めての出産を迎えることになり経験した、本当はツラい話も笑いで包んでしまい、読む側には爽やかな印象すら与える。

リベラルな街でトランプ大統領誕生を目撃

 著者らが滞在中の16年11月、米国ではトランプ大統領が誕生した。マディソンに本校を置くウィスコンシン大学は「リベラル」で知られ、その学園都市であるマディソンや同州の大都市ミルウォーキーなどにはリベラルな人が多い。ともに、いわば民主党系の街だ。ところが州のなかでは酪農業が盛んで、製造業の工場が多いことなどから州の大半では共和党色が強い。16年の大統領選では、ウィスコンシン州がキャスティングボートを握る格好になり「ヒラリー敗北にとどめを刺した」格好になった。この前後、街の雰囲気は停滞していたという。

 マディソンで大統領選を経験した著者は、日本での報道では決して分からない米国社会の複雑さや、トランプ大統領誕生で促された各国出身者の複雑な感情の吐露にも触れている。

 かつて、クリントン大統領(民主党)が誕生したときに、当時のウィスコンシン大学の学長が厚生長官に迎えられ、のちに共和党のブッシュ(息子)大統領が当選した際には、当時のウィスコンシン州知事が後任の同長官に指名されたことがある。大統領交代による閣僚人事にみられた、ウィスコンシン州-マディソンの関係を象徴する出来事でもあった。

動物園もある...はず

 本書では、湖や草原の広がり、夏にはホタルが飛び交うことなど自然が身近にあることが述べられる。ウサギやリスはあちこちにいるし、評者が暮らしていたときには夜になると住宅街にアライグマが現われた。ウィスコンシン州はアナグマで知られている。

 本書のなかで、ウィスコンシン州やマディソンについて、知られていないことを嘆いているが、大学以外にこれといって国外からは訪れるような目的がないのだから無理もない。マディソン暮らしの先輩としては、郊外にあるショッピングモールや、小規模ながら猛獣もいるなど本格的だった市内の動物園がどうなったのか触れてほしかったな。

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