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自民総裁選「45%ショック」・・・なぜ起きた?

  • 書名 監視社会と公文書管理
  • サブタイトル森友問題とスノーデン・ショックを超えて
  • 監修・編集・著者名三宅弘 著
  • 出版社名花伝社
  • 出版年月日2018年8月17日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・ 240ページ
  • ISBN9784763408648

 2018年9月20日に投票がおこなわれた自民党総裁選は、事前の予想通り、安倍首相が圧勝した。ちょっと見込み違いだったのが地方の党員票だ。7割の獲得を目指していたというが、55%しか取れなかった。自民党の要職や政権の主流から外れ、メディアの露出も少なくなっていた石破茂氏が45%も獲得したのである。

 そのあたりを読み取る記事は、21日の朝刊社会面では、安倍氏寄りと言われる読売・産経にはなかったが、批判論調で知られる朝日・毎日はトップで取り上げていた。朝日は、党員票が安倍支持でストレートにまとまらなかった一因に「森友・加計問題」も影響していると示唆していた。

政府がらみの審議会などの委員も経験

 本書『監視社会と公文書管理――森友問題とスノーデン・ショックを超えて』(花伝社)は、6年に及ぶ安倍政権のもとで、次第に世の中が息苦しくなり、一方では「森友・加計問題」に象徴されるように、不都合な事実にフタをする傾向が強まっているのではないかということを、法律家の目からおさらいしたものだ。

 この種の本を書く人というと、筋金入りの批判派ではないかと思われがちだが、著者の三宅弘弁護士は第二東京弁護士会会長・日本弁護士連合会副会長などをつとめ、現在は日本弁護士連合会秘密保護法・共謀罪本部長代行、関東弁護士会連合会理事長など法曹界の要職にある。

 本書で扱っている情報公開法、公文書管理法、個人情報保護法に関しては、立法と解釈運用に法律実務家としてかかわってきたそうだ。内閣府・高度情報通信社会推進本部個人情報保護検討部会委員、内閣府・行政透明化検討チーム座長代理、内閣府・消費者委員会個人情報保護専門調査会委員、内閣府・公文書管理委員会委員、特定歴史公文書等不服審査分科会会長など、政府がらみの審議会などのメンバーにもなってきた。このジャンルの専門家と言える。

 本書では、「スノーデン氏の内部告発によって明らかにされた国家ぐるみの大量情報監視の実態」「市民に公開されるべき『公的情報』は公開されず、保護されるべき『私的情報』は警察や情報機関が自由に収集し利用されている実態」「森友問題に見られる公文書の大幅な削除・改ざん」などが手厳しく指摘されている。著者自身は、上述のようにエキセントリックな立場の人ではないだけに、逆に言えばそれだけ、事態が深刻なことをうかがわせる。

福田康夫氏が公文書管理法を推進

 本書は安倍政権の「情報」についての「黒歴史」を一つ一つ刻印し、注意喚起する。

 トップバッターは、「集団的自衛権行使容認にかかる『想定問答資料』不存在決定の誤り」。すっかり忘却の彼方になってしまったが、朝日新聞記者の情報公開請求に対し、法制局長官が「想定問答資料」は行政文書ではないとして「不存在」決定をした。三宅さんは朝日記者から取材されたときに、この法制局長官の見解は「行政文書」の解釈に違反していると指摘。その後、法制局長官は「行政文書」であるとして一転開示するという展開になった。行政文書の解釈を、法制局長官からして間違える。しかも、憲法解釈の変更について、内部で協議した文書も残していなかった。何とも奇妙なことだった。

 さらに本書では、「森友学園問題にみる意思形成過程の公文書廃棄」、「加計学園獣医学部新設手続の過程文書の不存在」、「南スーダンPKO派遣日報の文書不存在取扱いの誤り」という17年から18年にかけて大問題になった文書処理を巡る大スキャンダルについて、デタラメぶりを復習する。

 自民党政権では福田康夫氏が、03年の官房長官時代から公文書管理問題について熱心で、09年には公文書管理法が制定された。「経緯も含めた意思決定に至る過程」なども作成義務とされている。森友や加計は、文書の保存義務を定めた公文書管理法4条違反、南スーダンも、行政文書の取り扱い自体の根本的な誤りと三宅さんは指摘する。

「無責任の体系」を乗り越える

 石破氏は総裁選で、「正直」「公正」「謙虚」などを前面に押し出していた。一般的には安倍政権の「森友・加計」への対応を批判したものと受け止められた。「森友・加計」は毎日新聞の7月末の世論調査でも、安倍首相や政府のこれまでの説明に「納得していない」と答えた人が75%、安倍首相に「責任はある」という人が61%に上るなど、広く国民の間に不満がくすぶっていた。

 安倍政権では、意図的、もしくは「忖度」によるとしか思えない公文書の不適切な扱いが目立つ一方で、特定秘密保護法、共謀罪など「新たな戦時立法の法制化」(三宅さん)がすすんだ。本書は冒頭で、元NSA(アメリカ国家安全保障局)局員だったスノーデン氏の告発から説き始めている。米国内にとどまらず、全世界で一般国民も監視対象になっているという実態が暴露された。そう言われても、日本人には余りピンとこないが、スノーデン氏は、こうした監視体制の強化について日米の協力体制が進んでおり、秘密保護法や共謀罪は米国の要求だったとみていた。

 本書はこのほか、プライバシー権など近年の情報を巡る諸問題を多岐にわたって目配りし、課題をまとめている。そして市民やジャーナリストが本書を参考に、情報公開法や個人情報保護法を使いこなし、公文書管理法の適切な利用を求めていくことで「無責任の体系」(丸山真男)を乗り越え、戦後の民主主義が実像として一歩ずつ発展していくことを願ってやまない、としている。

 総裁選の後日談だが、安倍首相支持に回っていた野田聖子総務相は、「結果をみると、自民党は『安倍1強だ』ということではなく、権力に対する健全な批判勢力があることが顕在化したということで理解いただきたい」(産経新聞)と述べていた。それだけ「45%ショック」があったということだろう。

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