読むべき本、見逃していない?

ジャパネットたかたと、日大アメフトの違いは...

  • 書名 間違いだらけのコンプライアンス経営
  • 監修・編集・著者名蒲俊郎 著
  • 出版社名イースト・プレス
  • 出版年月日2018年9月14日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数B6判・262ページ
  • ISBN9784781617060
BOOKウォッチ編集部コメント

 企業や組織・団体の「コンプライアンス」の問題は、事件や不祥事のたびにしばしば取りざたされる。今年も、女性社員が過労死した電通や「悪質タックル」問題を引き起こした日本大学などで、コンプライアンスが厳しく問われたものだ。

 コンプライアンスという言葉は大抵の場合「法の遵守」という言い換えが添えられ、法令をしっかり守って活動や組織運営にあたることと理解されている。本書『間違いだらけのコンプライアンス経営』(イースト・プレス)は「コンプライアンス=法の遵守」という単純な理解が誤りと指摘。短絡過ぎて逆に炎上を招きかねないと警告する。

やり過ぎて非道に

 コンプライアンスを励行したつもりが、社会的にみればとんでもない非道な行為となり炎上した例として、昨年6月にあった格安航空会社(LCC)による一件が紹介されている。

 それは、車いすの男性客が搭乗する際に階段式タラップを介助なしで自力で上らされたというもの。複数の同行者らが車いすごと担いで機内に乗り込む予定だったが、それが社内の規則では危険行為だと制止されたため、半身不随の男性客は腕などを使ってタラップを這うようにして上った。

 このことが明らかになると、ある著名コラム二ストが「コンプライアンスの弊害」を唱えた。これに対し「コンプライアンスはそんな血も涙もない非情なものではない」と著者。この事件を契機に、コンプライアンスに対して世間から批判が巻き起こったが、本当の問題は「法令遵守」という言い換えによる理解が支配的であったことであり、タラップの担ぎ上げを止めた職員が、真のコンプライアンスを理解していれば、会社の規則に関係なく、普通に人間としての良識に従って温かい対応を行っていたはずという。

 著者の蒲俊郎さんは、企業法務全般、コンプライアンスなどを専門に活動している弁護士。桐蔭法科大学院(横浜市)の法科大学院長、教授でもある。数多くの企業の顧問弁護士を務めながら、講演などで「社員を守る」という観点からのコンプライアンス教育を行っている。

「コンプライアンス=法令遵守」ではない

 「コンプライアンス」の考え方は、2000年代に入って進んだ規制緩和で、事業の民営化や、官制事業の民間参入が盛んになり、企業にそれまで以上の責任ある行動や振る舞いが求められ、徐々に重視されるようになったようだ。英語の「compliance」は「(何かに)応じること、従うこと、守ること」という意味で、その対象は法令に限定されるものではない。06年5月に会社法が施行されたことなどが影響して「コンプライアンス=法令遵守」の回路になったとも考えられる。

 先のLCCの一件もそうだが、著者は、この回路が強調されるあまり「昨今はその副作用が顕在化」と指摘。5年前の大手ホテルチェーンの食材偽装事件で会社側が「偽装ではなく誤表示」を繰り返し、反省は謝罪の印象を与えず火に油を注ぐ形になった。また、教育事業の大手企業は14年に情報漏洩事件の主役となったが同社社長「肝心な情報は漏洩していないため金銭的補償は考えていない」と述べた例などを挙げる。LCCの場合は、遵守が過ぎたものだが、これら企業の言い分は遵守の枠内だからセーフだろうというわけだ。

「法徳遵守」「紳士・淑女であれ」

 いつまでも「コンプライアンス=法令遵守」の回路だけに乗り経営を続けていると、時代から遅れ、ちょっとしたことが倒産リスクに高まりかねないことを本書は警告する。「法令遵守という言葉に縛られない、新たな発想やキーワードによるコンプライアンス概念が必要」なのだ。

 ジョンソン・エンド・ジョンソン、日本コカ・コーラなどのグローバル企業で社長や経営職を歴任し、ベストセラーの著書『経営の教科書』でも知られる新将命さんは「法徳遵守」を挙げる。「ビジネス弁護士」として知られ、かねてより「法令遵守」の言い替えの問題点を指摘している久保利英明弁護士は講演などで「紳士であれ(淑女であれ)」への置き換えを提言しているという。経営学者のP.F.ドラッカーは著書「現代の経営」で、経営者が自ら身に付けなければならない資質として「インテグリティ(integrity=誠実さ、真摯さ、高潔、完全な状態)」に言及しているが、著者は、この言葉に強く共感を覚えているようだ。

 「企業は法令遵守だけではなくインテグリティを最優先し、より幅広い社会的責任の遂行と企業倫理の実践を目指すべきということであり、法律や規則よりも、より倫理的なものの重要性に着目する取り組みと評価できる」

インテグリティを最優先

 「コンプライアンス=インテグリティ」あるいは「コンプライアンス<インテグリティ」に基づいた対応だったと著者が大いに評価するのは、04年3月に情報漏洩事件が発覚した際のジャパネットたかただ。同社は、テレビ、ラジオなど全ての販売チャンネルを止め徹底した対応を実施。同年は同社の10周年キャンペーンの最中で、タレントを使った記念番組を制作済みで放送枠も抑え商品も手配済みだったにもかかわらず全部をキャンセルしたという。販売自粛期間は49日間に及び、150億円もの減収になった。高田明社長(当時)は、インタビューや著書などで「経営者としての説明責任」を果たす重要性を述べている。

 高田社長は、この事件で、準備が不十分だったにもかかわらず報道側の要請に応じて会見を開き、質問が出尽くすまで、2時間以上にわたり質疑応答を続けた。「マスコミの先にいる消費者」に対して説明するという態度を貫いたものだ。これと対照的な例として著者は、18年5月に行われた、日本大学アメリカンフットボール部の監督とコーチによる会見を挙げる。

 同部の選手が相手チームの選手に行った悪質タックルをめぐる記者会見。「最悪の結果に終わった」と著者。「マスコミの先にいる『学生や保護者』及び『被害者』らに対して説明するという姿勢がまったく見られなかった」。そのうえ「当事者でもない大学広報部の司会者が、記者の声を無視して強引に会見を終了させるなど、余りにも不手際が多く、危機管理学部がある大学の対応とは到底思えないものだった」

 本書では、理念なき謝罪会見が致命傷となる可能性があること、信用をいったん失った企業には倒産リスクがのしかかることが警告されている。

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