読むべき本、見逃していない?

「横山ノックを天国へ送る会」で「伝説の名弔辞」を残したのはだれ?

  • 書名 話芸の達人
  • サブタイトル西条凡児・浜村淳・上岡龍太郎
  • 監修・編集・著者名戸田 学 著
  • 出版社名青土社
  • 出版年月日2018年9月10日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数B6判・251ページ
  • ISBN9784791770939
BOOKウォッチ編集部コメント

 「漫談」というジャンルを広げたのは、トーキー映画の登場で職を失った活動弁士たちだったそうだ。昭和4(1929)年、新宿武蔵野館で日本初のトーキー映画が公開されて以降、弁士たちは1人芸の漫談家などに転向していく。本書『話芸の達人 西条凡児・浜村淳・上岡龍太郎』(青土社)は、そんな漫談を生粋の関西弁で磨き上げた3人の芸の系譜を紹介している。

 著者の戸田学さんは、テレビ、ラジオの番組構成や、映画、落語などに関する著述で活躍し、『上方落語の戦後史』などの著書がある。3人の話芸の根底に3通りの芸脈が流れている、との指摘が興味深い。凡児が落語、浜村が浪花節、上岡が講談。本書にはそれぞれの漫談がたっぷり再録され、読むと、そのリズムや語り口、間の取り方から芸脈の差を感じ取ることができる。

権威におもねらず弱者の側に立つ凡児

 凡児は大阪市で生まれたが、幼少期を神戸で過ごした。神戸弁は純粋な大阪弁と違って柔らかい持ち味があり、やはり神戸出身の映画評論家・淀川長治や落語家・桂枝雀に共通するモダンな感じがあったという。昭和10(1935)年、横山エンタツ・花菱アチャコを模したしゃべくり漫才コンビでデビューするが、相方が急逝する。終戦の年、3度目の召集を受け、野戦病院で漫談を披露した。「特攻隊の飛行機は鼻緒の切れかかった書生下駄!」。危うく軍法会議にかけられそうになったというから、反骨精神は半端ではない。

 価値観が逆転した戦後、権威におもねらず弱者の側に立つ姿勢が凡児の芸を貫く。例えばベトナム戦争に介入したアメリカの高官が「共産軍の侵略を叩く」と発言すると、「侵略て、どっちが侵略しとんのか分からんねん!(中略)アメリカへ来とんのや、おまへんねんで。北ベトナムでやってまんねんで」と噛み付いた。桂文枝は、凡児の漫談には事実、誇張、飛躍で笑いを重ねていく方程式があることに気づき、影響を受けたという。

深夜放送で『苦海浄土』を取り上げた浜村

 浜村は京都生まれで、言葉を文章に書けば標準語だが、アクセントに京都なまりのある関西弁が持ち味だ。会社の業績が悪化し、司会の仕事に転身する。ジャズ喫茶からテレビ、ラジオと舞台を広げた。大阪万博が開かれた年、人気の深夜放送『ヒットでヒット バチョンといこう!』(ラジオ大阪)のディスクジョッキーとなる。中学生のリスナーが多かったが、あえて石牟礼道子の『苦海浄土』などを取り上げた。公害に揺れる社会のことを考えてほしかったからだ。また、浜村の映画評といえば結末までしゃべってしまうことで有名だが、浜村と淀川長治がチャップリンの『街の灯』のラストをどう語ったか、その比較が面白い。

 著者は、浜村の結婚式での話術を評価する。新婦から両親への手紙を朗読する時、手紙に書かれていないことも平然と語っていく。「覚えています、お母さん。木枯らし吹いてる寒い夜、風邪をひいてる私を抱いて、病院探して走ってくれた、あなたの胸の温もりを。あれは三つの冬でした」。こんな七五調だ。

 昭和34(1959)年、ジャズ喫茶に出演していた浜村を訪ね、弟子にしてくれと頼んだのが、京都の高校3年生、上岡だったそうだ。上岡は、横山ノックをリーダーとする漫画トリオの「横山パンチ」として社会風刺の漫才を始める。凡児からその頃、新聞や『週刊朝日』みたいな堅いものを読みなはれや、『アサヒ芸能』は読まんでよろしい、とアドバイスを受けたという。凡児は上岡の知性と毒に、自分の芸脈を受け継いでくれると確信していたのだ。

潔い引き際の美学を見せた上岡

 横山ノックの参院選出馬で活動停止後、上岡はラジオ番組で活躍し、「伝統芸能の中に身を置きたい」と講談を習得して創作にも励んだ。しかし、平成12(2000)年、突然引退する。著者が改めてその理由を尋ねたのに対し、新幹線内で挨拶にきた若手タレントと会話が続かなかった経験などを挙げ、上岡が語る引き際の美学は潔い。

 上岡の伝説の語りとして、著者は「横山ノックを天国へ送る会」での弔辞を上げる。引退から7年後だった。「ノックさん、あなたはぼくの太陽でした」で始まり、「漫才師から参議院議員、大阪府知事から最後は被告人にまでなったノックさん」など、経歴から得手不得手まで知る限りの素顔を万感込めて語り、ほのかな笑いが広がったという。著者はこの語りを「井原西鶴から織田作之助にまで見られる物事を饒舌に列挙して語るという大阪文学の特徴までも垣間見えた」と絶賛している。

 評者は記者時代に大阪府庁で横山ノック知事を取材したことがある。知事室を尋ねると、いきなり「たこ焼き買うてきてくれたん?」とボケられて戸惑った。本書の中で、上岡は「ぼくが坂田利夫とか横山ノックやったら、まだ出る場所があったと思うんですよ。(中略)バラエティでボケのおじいちゃんは可愛がられる。けど、それはぼくのニンではない」と話している。

 不世出の大ボケだったノック先生は、上岡らの反骨精神あふれる話芸をどう見ていただろうか、尋ねてみたかった。

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