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芥川賞作家が神道、緊縛、SMに正面から向き合った!

その先の道に消える

 『銃』でデビューした中村文則氏は、『土の中の子供』で芥川賞、『掏摸〈スリ〉』で大江健三郎賞と着実にステップアップする中で、ミステリの手法に磨きをかけた。『掏摸〈スリ〉』の英訳が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの2012年年間ベスト10小説に選ばれるなど、近作は世界各国に翻訳され、ノワール(犯罪小説)の書き手として注目されている。

 その中村氏の新作が『その先の道に消える』(朝日新聞出版)。「本作は、著者に団鬼六が憑依して書かせたような、神道緊縛官能幻想ミステリ」というネットでのコメントが気になった。故・団鬼六氏は言わずと知れた、SMものなど官能小説の第一人者。芥川賞作家の中村氏がSM小説とはどういうこと? と興味半分で読み始めると、完成度の高い文学空間が構築されていた。

 アパートの一室である「緊縛師」の死体が発見される。重要な参考人として名前があがる桐田麻衣子は、所轄の刑事・富樫が惹かれていた女性だった。疑惑を逸らすため、麻衣子の指紋を富樫は偽装する。その一部始終は同僚の葉山に見られていた。やがて警視庁の捜査一課が乗り出すが、事態は思わぬ方向へ走り出す。

 事件は一見、解決したかに見えたが、驚愕の手記が見つかり、再び読者は混乱の極地に陥る。

 富樫と麻衣子がからむ場面などは、ほとんど官能小説の記述の水準にある。また緊縛師、SMなどをあざとい道具立てと見なす人もいるだろう。しかし、これらは文学的な必然性が呼び起こしたものだ。

 神社の注連縄は本来、麻縄でつくられるなど、神道と麻縄、大麻の関係などは、欧米の読者の好奇心をくすぐるだろう。本書も翻訳され、海外でも高い評価を得ることは間違いない。

 表紙の写真は、世界的ロープアーティストで緊縛師である、Hajime Kinokoさんのこの本のためのオリジナルだという。中村氏からオファーしたが、偶然にも同い年で出身地(愛知県)も近いとわかり驚いたという。そんな神がかりの要素に満ちた小説だ。  

  • 書名 その先の道に消える
  • 監修・編集・著者名中村文則 著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2018年10月30日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・246ページ
  • ISBN9784022515735

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