読むべき本、見逃していない?

伝説の『日英語表現辞典』の著者は「荒地」詩人のゴッドマザー

  • 書名 日英語表現辞典
  • 監修・編集・著者名最所フミ 編著
  • 出版社名ちくま書房
  • 出版年月日2004年1月 7日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数文庫判・635ページ
  • ISBN9784480088079

 9月(2018年)にツイッターで「どうしても読みたい」と話題になり、版元の筑摩書房が10月に緊急復刊した『日英語表現辞典』(ちくま学芸文庫)をようやく入手した。1980年に研究社出版から刊行され、2004年に筑摩書房から文庫化された「伝説的辞典」だが、絶版になっていた。今回のブームでアマゾンでは一時中古本に1万円という高値がついた本が、リーズナブルな価格で読めるようになったのはありがたい。

 この辞典の特長やすばらしさは後述するとして、評者がなぜ入手にこだわったかをまず説明したい。著者の最所フミ(1908-1990)は、津田英学塾(現津田塾大学)、アメリカ・ミシガン大学英文科、同大学院を出て、戦前にNHK国際局でニュース、解説原稿を作成、戦後はリーダーズ・ダイジェストやジャパン・タイムズなどで活躍した当代一の英語の使い手だった。『英語類義語活用辞典』『英語にならない日本語』など著書も多い。

鮎川信夫が隠し続けた結婚

 その一方では、鮎川信夫(1920-1986)、田村隆一(1923-1998)ら戦後を代表する現代詩人らが集った「荒地」の関係者のゴッドマザーのような存在で、優れた英語力は彼らにも大きな影響を与えたと思われる。アメリカ文学者で晩年は『タオ-老子』などで知られたタオイストの加島祥造(1923-2015)と同居したのち、鮎川信夫と結婚するが、鮎川は長くこのことを秘密にしていた。この経緯は河原晋也遺稿集『幽霊船長』や宮田昇『戦後翻訳風雲録』に詳しい。

 河原が師匠の鮎川信夫の死去で、家に行ったら、幽霊屋敷とおぼしき状態の家でフミ夫人に対面し、仙人のような少女のようなそのたたずまいを印象深く描いている。鮎川も『Xの悲劇』をはじめ多くのミステリの翻訳を手掛けている。彼女の内助の功があったと考える方が自然だろう。

packageとbaggageの違いは?

 本書は、外国人には理解が難しい「英語」「日本語」を厳選し、それぞれの国の伝統的な表現や慣用句、俗語を解説している。

 たとえば辞書にある意味と現在の一般用法が食い違っている言葉として「welfare」を挙げている。本来の「福祉」の意味でなく、「貧民救済」とか「慈善」といった特殊語になっているという。「welfare state」は「福祉国家」ではなく「生活保護国家」といった意味になると注意している。

 英語関係の著作も多いかつての同居人、加島祥造が「母国語の情感と英語」と題した解説を寄せている。そして「彼女の日・英語についての知識と体験が単語の説明ワクを越えて溢れだしてミニ・エッセイとなった時は面白いし役立つものになる」として、「package/baggage」の例を挙げる。本書の「要するにpackageとは好ましいものをたくさんcompactにまとめた『小包』であるのに反し、baggageはまさにその正反対。女のことを"that baggage "と言えば、『無価値な性悪女』(a worthless and vile woman)の意で、いわゆる『とんだお荷物』に当たる」という記述をツマラナイと思う人は、読むのが10年早いと揶揄している。そして知る限り「英語力に練達の人」であった二人として、最所フミと作家の吉田健一を挙げている。本当に語学ができる人とは「深い情念を持つ人格なのだ」と結ぶ文章には同志愛のようなものが感じられる。

 英和の部と和英の部の二部から成る。英和の部の単語の解説に蒙をひらかれ、和英の部のみごとな単語の選択にためいきがもれる。「どんぐりのせいくらべ」とか「五十歩百歩」なんていう言葉をどう訳すのか。持ち歩き、一日1ページ、じっくり味わいたい本である。  

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?

sub