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映画化の予定は? 大女優が不実な不倫相手の巨匠に怨み節

  • 書名 有馬稲子 わが愛と残酷の映画史
  • 監修・編集・著者名有馬 稲子 著、樋口 尚文 著
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2018年6月27日
  • 定価本体1900円+税
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784480818478

 デジタルの進化のおかげで、BSやCS、DVD、ネット動画と映像メディアが多様化し、いまでは過去の映画やテレビドラマの名作を家庭で手軽に楽しめる。それに合わせるように、往年の名優たちがしばしばクローズアップされ、名作の時代を語ることが多くなっている。

 本書『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』(筑摩書房)は、その美貌で、まさに一世を風靡し「日本映画の黄金時代」に数々の作品で主演した女優、有馬稲子が、巨匠と呼ばれた監督や共演者らとの秘めた関係までを含め、映画人生を語ったもの。それは「愛と残酷」に満ちたものだったというのだ。

4Kデジタルで美貌再現

 デジタルメディアで見られるかつての映像作品は、最新の技術で修復され、公開時より鮮やかさが増しているようにみえる。今年2月に行われた「第68回ベルリン国際映画祭」のクラシック部門ではオープニングに、有馬が主演した「東京暮色」(小津安二郎監督、1957年公開)の4Kデジタル修復版が公開されたが、当時24歳の有馬の美貌と、憂いを効果的に配した演技が観客を魅了したという。

 本書の表紙の有馬の肖像は、その4Kデジタル修復版のポスターから採られたものだ。

 有馬稲子は昭和7年(1932)生まれ。同23年(1948)に宝塚音楽学校に合格し、翌年には歌劇団の花組に編入されて初舞台を踏んだ。実は養母でもある伯母が宝塚にいたことがあり、芸名が「有馬稻子」だったことをこのころ初めて知り、劇団側の意向もあり2代目を襲名したという。デビュー後は、その可憐な容貌で一気に「人気スタア」の仲間入り。そしてすぐさま映画界から誘いの声がかかる。後に東宝映画の社長となるプロデューサー、藤本真澄氏が映画出演を打診。劇団は断っていたが、東宝側の熱意が通じ同28年(1953)に同社の専属になった。

 本書は、映画評論家で自らも監督としての作品がある樋口尚文さんによるインタビューで構成。有馬は、同30年(1955)に東宝を退社し、その直後に松竹と優先本数契約を結び、戦後を代表する名女優としての地位を築くことになる。そして映画各社の経営が低迷を始める1970年代以降は活躍の場を舞台公演に移すのだが、インタビューは「愛と残酷」に苦悩することがあった銀幕のヒロイン時代が主だ。

結婚しても会ってくれ...

 有馬は以前にも、自身の波乱万丈の半生を赤裸々に述べたことがある。2010年に日本経済新聞の「私の履歴書」に登場し、20代のとき、17歳年長で当時は新進気鋭として知られ、のちに巨匠と呼ばれた監督と数年間、泥沼の不倫関係にあったことを告白。中絶を強いられたことなども明かした。寄稿したのは監督が亡くなった2年後だった。

 このときにまだ言い尽くせなかったのか、巨匠監督への怨み節は本書でもさらにトーンが上がる。監督との関係がスタートしたのは21歳のときで「7、8年続いた」という。この監督との関係を清算して、29歳のときに、共演をきっかけに親しくなった萬屋錦之介(当時中村錦之助)と結婚するのだが、それを知った監督は、3か月に一度でいいから今までのように会ってくれ、とか、どうしても別れたいのなら、今まできみに注いだ愛情の責任を取れ、などと絡まれたことなどを明かす。

 錦之介との婚約中、映画撮影のロケ先で体調を崩し入院したことがあり、手術を受けた日の夜に監督が病院に来た。「ようやく意識が戻った私の枕元に突然来て立っていて、お見舞いの言葉をいうでもなく錦之助さんとの結婚を思いとどまるように説得をはじめた」とあきれたように思い出す。そこへ錦之介が数人とどやどやと病室に。有馬は2人が衝突するのではとひやひやしたというが、監督はコートをかぶって身を隠したというのだ。

 錦之介は、明るい調子で見舞いと励ましの言葉をかけるとせわしなく去ったというが、その間の監督の動きには記憶がない。「私は二人の男の誠実さの違いについて比べてしまうことになりました」と有馬。

語り部としての使命も

 有馬は「日本映画の黄金期」とされる1950年代に、小津安二郎、野村芳太郎、小林正樹、内田吐夢、渋谷実、中村登、五所平之助ら黄金期を担った巨匠らと仕事をした「スタア女優」。しかしもう半世紀以上も前のことであり、有馬は「気がつくと、時代の証言者として話せる人も数少なくなっている」と述べ、この時代の語り部としての使命も感じていたようだ。

 巨匠らの作品は修復を経て鮮やかさは制作当時のまま鑑賞できるが、監督たちの人となりを伝えられるのは有馬ら限られた人たちだけだろう。しかも、それだけ多くの名監督たちの作品に起用されたのは、有馬が持つ「美貌」や「艶姿」あるいは「色香」あればこそ。その意味では、有馬は非常に限定された証言者であり本書も貴重な一冊だ。共著者の樋口尚文さんは「補章」のなかでこう述べる。

 「宝塚時代、映画時代、演劇時代を通して、有馬が最も表層的な美しさを媚態をこそ求められたのは『映画女優の季節』である。それは有馬にとって本意ではなかったに違いないが、しかし、それゆえの愁いと不安、さらにはそういう要求ばかりがなされることへの苛立ちなどが、有馬の美しさに影を落としているのもこの季節なのであって、そのことがはからずも有馬のイメージに蠱惑的暗さを与えているのだ」

 本書ではそのことの具体的なことが伝えられ、それらを読むと、ホームシアターの「名画座」で、最も見たい往年の女優の一人に挙げたくなるに違いない。

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