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兄と妹のように暮らす夫婦の明かせない秘密

夫のちんぽが入らない

 本書『夫のちんぽが入らない』(講談社文庫)は、昨年(2017年)1月に扶桑社から単行本が発行されるとベストセラーとなり、漫画化もされた。さらにNetflix・FODで来年(2019年)連続ドラマも配信されるという。今年(2018年)2月に出した2作目のエッセイ『ここは、おしまいの地』(太田出版)は、第34回講談社エッセイ賞を受賞するなど、本書をきっかけに著者のこだまさんは大きくはばたいた。

 評者はタイトルがあまりに衝撃的なので、単行本はやりすごしていた。朝日新聞の書籍広告でも書名は掲載されず、「書名は書店でお確かめ下さい」という前代未聞の広告文が話題にもなった。受け狙いのあざとい小説かと思っていたが、エッセイを先に読み、まったくの誤解だったことが分かった。実に真摯な愛と性の私小説だったのだ。

 北海道の片田舎に生まれ育ち、大学進学とともに東北のある地方都市に移り住んだ「私」は、同じアパートに住む先輩と交際を始める。しかし、初めて交わろうとした夜、セックスをすることが出来なかった。「でん、ででん、でん。まるで陰部を拳で叩かれているような振動が続いた」。彼の性器が全く入らないのだ。ちなみに高校時代に一度だけ経験があり、その時は出来たのに。

 その後も結ばれなかったが、かえって精神的なつながりは強くなり、就職後に二人は結婚する。しかし、夫は隠れて風俗に通っていたことがわかる。夫はやはり不満だったのだ。

 一方、小学校の教師になった「私」にも精神的な危機が迫る。ある女生徒にターゲットにされ、学級崩壊が始まる。出会い系サイトで知り合った男たちといきずりのセックスを重ねる。「ずっとまともにセックスができなかったのに、学級が崩壊したことでセックスに依存するようになるなんて、どうかしていた」。そして教師を辞める。

 35歳の時に冬の北海道の網走に二人で旅行。「私たちの性は網走監獄の鉄格子の奥に置いてきた」と性を封印、36歳で閉経する。その後は臨時教員をしている。二人は出会った時のような兄と妹のような関係となり、平穏に暮らしている。

 エッセイ『ここは、おしまいの地』では、彼女が文章を書くようになった背景も明かされているので、終始余裕をもって読むことが出来た。だが、本書は違う。切迫感がある。苦悩がある。どうなるか分からない二人が気になる。

 別のタイトルなら、どうだったのかと考えてみる。やはり、この即物的なタイトルが最もこの特別な物語にはふさわしいと思う。

 その後、二人は彼女の生まれ故郷の田舎で暮らしている。でも小説、エッセイすべて家族と夫には秘密にしているという。二作を合わせて読んでほしい。  

  • 書名 夫のちんぽが入らない
  • 監修・編集・著者名こだま 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年9月14日
  • 定価本体600円+税
  • 判型・ページ数文庫判・249ページ
  • ISBN9784065129708
 

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