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金沢が「京都とは違う」まちづくりにこだわる理由

  • 書名 まちづくり都市 金沢
  • 監修・編集・著者名山出 保 著
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日2018年9月20日
  • 定価本体780円+税
  • 判型・ページ数新書・224ページ
  • ISBN9784004317395
BOOKウォッチ編集部コメント

 3年前に北陸新幹線が開業した金沢。かねてより有数の観光地の一つだったが、東京などからのアクセスが飛躍的に向上し、注目度は一段と増している。内外からの観光客が増えているのはもちろん、アクセスが容易になったことでリピーターが大幅に増えているという。

 それは「交通の便」だけが理由ではなく、長年にわたり考えられた「まちづくり」の成果。本書『まちづくり都市 金沢』(岩波書店)では、その過程が明かされている。最初でも、2度目以上でも、金沢旅行の前に読めばきっと街の味わいが深いものになる。

「金沢ラブ」で右に出るものない

 著者は生まれも育ちも金沢で、1954年に金沢大学を卒業後には金沢市役所に就職。87年に助役に就任し90年に市長選で初当選、以後、5期20年にわたって市長を務めた。これまでにも『金沢を歩く』『金沢の気骨』などの著書があり、経歴からもしのばれるが、その「金沢ラブ」では人後に落ちない。

 「加賀百万石」で知られる街は史跡も多く、戦災を免れた建造物も少なくない。著者は、金沢市では条例などにより、それらの保存に努める一方、景観との調和もこころがけてきたと胸を張る。

 メーンのシナリオの一つは、95年に策定された「金沢世界都市構想」。そのなかでは、同市の未来像として、独特の「世界都市」が想定されている。それは、世界の政治、経済などの中枢を担う大都市ではなく「規模は小さくとも、歴史があり、文化に富み、経済も盛んで、風格のある、オリジナリティの豊かな、尊敬に値するまち」。金沢を訪れたことがある人なら、ああ、なるほど...と心当たりの場所や風景があるのではなかろうか。

「日本の駅前広場では唯一」

 著者は市政にあたり、地方都市のありかたを模索し、その一つの手法として市民との協調が大切であることを随所で述べる。「都市構想」でも、各界との協調は欠かせないことが強調される。市外から鉄路で金沢に入れば、駅舎や駅前広場ですぐに、その産物であるランドマークに圧倒されるが、市の新しい玄関口もその産物の一つだ。

 「日本の駅前広場では唯一」というガラスの大屋根が頭上を覆い、その一端には「鼓門」と名づけられた木造ゲートが据えられ厳かな雰囲気を演出。これからめぐる名所、旧跡への期待感を抱かせる。

 大きな地方都市の駅ではたいてい高架橋や地下道を組み合わせるなどして似たようなつくりになっている。人と車を分離するため歩道橋に広場の機能を持たせたペデストリアンデッキが駅ビルと一体的な構造は、首都圏のターミナル駅にも少なからずある。「戦後の都市計画やまちづくりが機能性や効率を優先するあまり、まちの固有性と独自性を失くすことになったのは事実」と著者。金沢市では「駅はまちの顔であり要」をセオリーにすえ、JRや県のほか、地元の文化・経済界からも協力を得て、地域にふさわしい装いの駅を誕生させた。本書では、その過程も詳しく述べられている。

品位あるまちづくりで差別化

 金沢は「古都」の一つに数えられたり、北陸の「小京都」に擬せられたりすることがしばしばある。全国各地の「古都」や「小京都」は、それを前面に出して観光客の誘致を図っているが、同市に生まれ育ち、長きにわたり同市の舵取りを担った著者は、金沢が古都や小京都になぞらえてみられるのが不本意のようだ。

 金沢の街は、前田利家が城を築いたことで開かれたことは多くの人が知っている。それは1583年のこと。「これに対し」と著者は、平城京遷都(710年)、平安京遷都(794年)や、鎌倉幕府が12世紀に開かれたことなどを引き合いに出し、奈良や京都、鎌倉などの「古都」が1300~830年の歴史を誇るのに比べ、金沢は約430年ほどしかたっておらず「古都と呼ぶのは適当ではない」と述べる。また、1966年制定の「古都保存法」でも対象外であることにも触れ、その観点からのまちづくりには否定的だ。

 金沢が「小京都」と呼ばれることに対する違和感の表明は、さらにきっぱりとしている。「文化の主体は、京都では公家であり、金沢は武士。ここが両者の根本的なちがい。公家の文化は『雅』なら、武士のそれは『粋』と言えるもの」。著者は、戦禍を免れたことや、伝統的な環境があることなど「両市のあいだに類似点は少なくない」というが、金沢の市民感覚としては、街の構造や食文化などではむしろ江戸に親近感を寄せている。

 だが、金沢は金沢。同市が目指すのは「オリジナリティの豊かな、尊敬に値するまち」なのだ。本書の随所で発揮される「金沢ラブ」のささやきの一つにはこうある。

 「小さな金沢が京都や東京と比べて論じられるのは、日本海側にあって、固有の歴史や文化に責任を持ち、その文化が景観を形成する。そんな品位のあるまちづくりを進めてきたからではないでしょうか」

 金沢に行ったことがない人が読めば行きたくなり、行ったことがある人が読めばあらためて訪ねたくなる気にさせる一冊。

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