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つぶれる寸前の酒蔵が「新ブランド」で生き返った!

最高の日本酒 関東厳選ちどりあし酒蔵めぐり

 地方の酒の蔵元の製品が注目されて、数年前から日本酒ブームが静かに続いているという。全国のメーカーの数は減少しているが、各地には根気強く新しい味の開発に取り組んでいる蔵元も少なくない。

 本書『最高の日本酒 関東厳選ちどりあし酒蔵めぐり』(双葉社)は「酔っぱライター」を自称する著者が、まさに選りすぐった関東の12蔵をめぐった日本酒紀行。単に酒の味を紹介したばかりでなく、各酒蔵のドラマを掘り下げ、その内容は「ちどりあし」どころか、地に足がついたようにしっかりしており、読み応えも酔えそうだ。

専門の酒販店からアドバイス

 著者がまず訪ねたのは、酒蔵ではなく東京都多摩市の酒販店。創業は大正3年(1914)で、現当主は3代目というから、なかなかの老舗だ。日本酒を味わいに入った蕎麦屋で紹介されたという。

 本書は、2017年4月から「小説推理」誌に連載されたシリーズの単行本化。企画をスタートするにあたって、取材するべき酒蔵の候補について、同店の社長にアドバイスを求めた。というのも同店は、常時500を超える銘柄をそろえ、蔵元との直取引は8割に及ぶという専門店なのだ。店内は薄暗くひんやりしており、日本酒を最高の環境で管理するための巨大冷蔵庫や地下貯蔵庫を備える。

 大正時代の創業のときから、これほど特徴的な店だったわけではない。いわゆる大手企業によるナショナルブランドで十分商売になっていた昭和50年代半ばのあるとき、客から新潟の酒がないかと聞かれたのが、いわゆる地酒販売に手をひろげるきっかけだったという。

 同店では当時新潟の地酒は扱っていなかった。そこで蔵元に電話をいれてみたが相手にされない。調べてみるとどの銘柄もおいしい酒らしい。そこで直接、新潟まで足を運んだが仕入の交渉は難航。3年かけても卸してもらえないものもあった。そこで、酒造りからかかわって自分たちで蔵元を育てようという方針をとるようになったという。蔵元と関わり合うようになって25年ほどが経過した。

 酒造りからかかわっているのだから蔵元に詳しくないわけがない。この酒販店のことも詳しくルポされているので合わせて楽しめる。

関東1都6県と山梨県の12軒

 紹介されている酒蔵は、関東1都6県と山梨県の12軒。東京、山梨、茨城、神奈川から各2軒ずつ、栃木、群馬、千葉、埼玉から各1軒ずつが選ばれている。

 一番目に紹介されているのは、「仙禽」を造っている栃木県さくら市の「せんきん」。かつては普通酒を大量生産しており、生産量の8割を「桶売り」といって、別の酒造メーカーに瓶詰めなどせずそのまま売っていた。残りの2割が県内のスーパーやコンビニなどで販売されたが、3か月以上売れないと3割引きのシールが貼られてしまう製品だった。酒販店回りの営業で「お前んとこの酒はまずいからなあ」と言われることもあったという。

 2000年代に入ると経営難に見舞われるようになり、06年になると、桶売り相手の顧客から契約を切られ酒造りが止まる。銀行からも見放されたという。

まさに「ライスワイン」

 そこで、一時ソムリエの道に進みながら04年に実家にもどった11代目蔵元の薄井一樹さんが勝負に出て、ワインをヒントに、それまでの日本酒ではあまり考えられなかった酸味と甘みに注目した酒造りの取り組みを始めた。先代がほとんど使わず、古びた印象になっていた「仙禽」というブランドをこの酒に使い、わずかな量の生産から再スタートを切った。

 「現代の食文化を考えると酸味が絶対に必要だという確信がありました。脂っこい物や肉類にワインの酸味がよく合うように、日本酒にも酸味が欠かせない。純粋な和食であれば流麗に辛くフィニッシュするお酒でいいのかもしれませんが、日本の食卓は変わってきている」と薄井さん。この読みはあたり、それまで日本酒を知らなかった若い女性たちに受け入れられて、仙禽は成長ブランドになった。

 以前は「日本酒」の英訳として「ライスワイン」などが当てられたものだが、仙禽では原料米を、ワインにならってドメーヌ化。ドメーヌはブドウ栽培からワインの生産まで一貫して行う醸造元のことで、薄井さんは自社で買うか契約かをした田んぼで原料米をつくり、蔵で用いる仕込み水の地下水と同じ水脈の上にある田んぼに限って作付けをするほどこだわっている。

 この仙禽でももちろん、蔵元を訪ねたあとの数ページでは、紹介した酒を飲める店に立ち寄り、地元料理とともに味わう。食レポも詳しくグルメガイドとしても実用的だ。

 J-CAST BOOKウォッチでは以前に、同じ著者の『新幹線各駅停車 こだま酒場紀行』(ウェッジ)を紹介している。

  • 書名 最高の日本酒 関東厳選ちどりあし酒蔵めぐり
  • 監修・編集・著者名大竹 聡 著
  • 出版社名双葉社
  • 出版年月日2018年9月21日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・304ページ
  • ISBN9784575313895

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