読むべき本、見逃していない?

渋谷駅と浅草駅はこんなに違う

  • 書名 怪しい駅 懐かしい駅―東京近郊駅前旅行
  • 監修・編集・著者名長谷川 裕 著、村上 健 絵
  • 出版社名草思社
  • 出版年月日2013年8月28日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・184ページ
  • ISBN9784794219961

 5年前に刊行された『怪しい駅 懐かしい駅―東京近郊駅前旅行』(草思社)は、東京都内や近郊の鉄道駅のうち「怪しさ」や「懐かしさ」が際立つ16駅を探訪した鉄道エッセイ集。その成り立ちや歴史、さらに駅前ガイドも盛り込まれ、それらの駅を知っている人はもちろん、知らない人もきっと楽しめる。

 精緻なタッチながらほのぼの感漂うスケッチ付きで、それらが写真とは違う説得力や奥行きを感じさせる。

カオスは街だけじゃなかった

 5年前の刊行と聞くと「怪しさ」「懐かしさ」も随分変わっているんじゃないかとも思われるが、たとえば「渋谷駅」のパートをみると、すでに東京メトロ副都心線と東急東横線が直通しており、一段と迷宮化した怪しさはすでに現実のものとなっていた。

 東横線はこの地下鉄との直通化でホームが地上階から地下5階へ移設。「山手線、銀座線、井の頭線への乗り換えがなんとも不具合になった」というのは利用者共通の不満だろう。とくに銀座線(東京メトロ)は、渋谷駅では、地下鉄にもかかわらずホームはビル3階で、副都心線とは42メートルの高低差があり、この間に7つの路線が交錯している。

 その様子を断面図にして描いてみれば、アリの巣のような構造になっているに違いなく「広い視界を閉ざされた地下道は三次元の迷路」状態。「中に入ると方向感覚はまったくおかしくなる。行く先表示にひたすら従うしかない」。

 渋谷では、駅周辺の街も先ごろのハロウィーンのように、イベントに応じて発生するカオスがしばしば問題視されるが、駅も時代ごとの進化によりカオスを深めているよう。本書では、昔はこんな風じゃなかったと懐かしむように、昭和36年(1961)ごろの駅周辺をスケッチで再現。駅前で連なる都電の姿や、ダイハツ・ミゼットとみられる三輪自動車が描かれている。また、渋谷駅近くのビル間には1950年代初めのわずかの間、子ども用のアトラクションとしてロープウエーが運行されていたことがあり、そのイラストも加えられている。

特急「スペーシア」もママチャリなみ

 渋谷駅は、懐かしさを感じさせるものがほとんどなくなっているが、いまだ昔日のままの様子が残されている駅も少なくない。渋谷から都心をまたいで東側にある「東武浅草駅」はその一つだ。

 アールデコ様式のビル内に駅構内をそのまま取り込んだ本格的なターミナルビルで、昭和6年(1931)に開業。戦禍にも耐え、このあたりでは大正10年(1921)に建てられた神谷バーに次ぐ歴史を誇る。

 昭和初期、東武は京成とともにターミナルが隅田川の東側、つまり都心からみれば「川向こう」どまりで、運賃収入増のため両社は、同川越えを狙っていた。認可をめぐって競争となり、それが激化して疑獄事件に発展したという。

 競争を勝ち抜いて、浅草(地名は花川戸)への延伸を実現させた東武だが、ビル建設地域には人家が密集しており駅の敷地を余裕を持って確保するのは困難で、隅田川に並行するように細長く伸びた土地にビルを建設。川を渡った線路を直角かと思うほどにぐいっと曲げて引っ張ってくることになったものだ。このビル2階の浅草駅を発着する電車の速度はいまも時速15キロとママチャリなみ。この急カーブでの安全確保のためのゆるゆる運転なのだ。

 時代を重ねるにつれ、浅草駅は怪しさを増す。だんだんと電車の1編成が長くなり、それに応じてホームの延長が必要。ところが、ホームの端は急カーブのため軌道の間が狭くなっているのでホームは長くなるほど先細りに。しかもカーブが急なところでは車体との隙間が広くなり、日光・鬼怒川との間を走る東武の看板特急「スペーシア」では、乗降用の渡し板をかける作業が行われる。

数多い鉄道駅関連の書籍

 本書で取り上げている駅は、東武浅草駅のように私鉄駅が多く、ほかには、東横線・祐天寺駅、井の頭線・神泉駅、目黒線・田園調布駅、大井町線・九品仏駅などが訪問先。著者の長谷川裕さんは1950年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、出版社勤務を経て著述業に転じた。得意の分野は漫画や俳句と乗り物関係(クルマ、鉄道)。鉄道に関する著書はほかに『五反田駅はなぜあんなに高いところにあるのか:東京周辺 鉄道おもしろ案内』(絵・穂積和夫、村上健、草思社)がある。

 イラスト担当の村上健さんは1951年大分市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、出版社の広告制作部門を経て、50歳を前に独立して広告プロダクション経営。独立後に絵の技法書編集をきっかけに水彩スケッチを始め、雑誌や個展、ブログで作品を発表し続けている。

 J-CAST BOOKウォッチではこれまで、鉄道駅や歴史については『地図で楽しむ日本の鉄道』(洋泉社)『駅の文字、電車の文字』(鉄道ジャーナル社) 『日本全国駅名めぐり』(日本加除出版)『地形を感じる 駅名の秘密 東京周辺』(実業之日本社)『秘境駅の謎 なぜそこに駅がある!? 』(発行:天夢人 、発売:山と渓谷社)『鉄道ふしぎ探検隊』(日本経済新聞出版社)『駅格差 首都圏鉄道駅の知られざる通信簿』(SBクリエイティブ)などを紹介している。

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