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「インテリジェントなアクティブシニア」として生きる

ジェロントロジー宣言

 人生100年時代を見据えて、これまでのような定年後の過ごし方、健康法といった目先の対処策にとどまらず、社会の仕組み全体まで組み替える作業を急いで進める必要がある。これまで「老年学」「老人学」と訳されていたジェロントロジーを、筆者の寺島実郎氏が「高齢化社会工学」としたのは、そうした問題意識が根底にあるからだ。

国道16号線沿いに並び、総戸数は10万戸

 世界に先駆けて少子高齢化が進展する日本は取り組みの先進地となる役回りであり、そのなかでも筆者が学長を務める多摩大学が立地する多摩ニュータウンで何らかの実践が成果を上げたならば、国内外に大きな影響を及ぼすことにもなる。

 本書『ジェロントロジー宣言』(NHK出版新書)第2章が、都市郊外型の高齢化を取り上げ、最大の課題と位置付けたのは、高度成長を支えたベッドタウンが急速に老いていることへの危機感からといえる。首都圏を例に挙げれば、多摩ニュータウンを筆頭に十を超す大団地が国道16号線沿いに並び、総戸数は10万に及ぶ。関西や中京圏なども同様である。

 比較的高学歴の元サラリーマンと配偶者というのが平均的な住民像だが、死別する年代にさしかかり、「コンクリートのブロック空間に独居老人を閉じ込めたまま、地域社会全体が高齢化している」と現状を切り取る。

 そうしたなかで、「インテリジェントなアクティブシニア」という老いの理想像を生きるには、暴走老人と化して社会を呪うのでなく、知の再武装をして、自立と自己抑制に心がけながら社会とかかわりあうのが何よりも重要と訴える。

子どもたちの半数は107歳まで生きる

 本書から離れるが、政府は2017年に安倍晋三首相を議長に「人生百年時代構想会議」を設け、議論を始めている。そこで基調報告を行ったリンダ・グラットン氏(ロンドンビジネススクール教授)が示したグラフは衝撃的なものだった。

 それによると、07年生まれ、つまり小学校高学年の子どもたちの半数は107歳まで生きると推計されている。そのうえで、人生を「教育⇒仕事⇒引退」というステージに区分することが意味を成さなくなると指摘する。

 グラットン教授は、会社勤めや起業、無給のコミュニティ活動などを組み合わせたマルチステージの人生がこれからの生き方であるとみて、政府にもそうした意識で対策に乗り出すように提言しているが、本書の主張と共鳴し合っている。

 70歳代を迎えた団塊世代に属す筆者だけに、その体験にも傾聴すべきものが少なくない。NPOやNGOを立ち上げる人も見られるが、現状は組織内の争いごとが目立つと厳しい評価を下す。初対面の二人の老紳士が、元の勤め先の規模やそこでの地位を探り、互いに瀬踏みし合う光景は評者も何度か目にした。「俺は偉いんだ症候群」にかかった高齢者が率いてしまうと、そこには若い世代は集まってこないという下りには、思わず膝を打った。

 多摩大学では学長主宰で通年ゼミが開かれ、ジェロントロジーはその中核テーマになっている。学生たちが多摩ニュータウンを舞台にどんな提言をまとめるのか。興味深い挑戦である。

BOOKウォッチ編集部 コポガバ)
  • 書名 ジェロントロジー宣言
  • サブタイトル「知の再武装」で100歳人生を生き抜く
  • 監修・編集・著者名寺島 実郎 著
  • 出版社名 NHK出版
  • 出版年月日2018年8月 8日
  • 定価本体780円+税
  • 判型・ページ数新書・ 208ページ
  • ISBN9784140885604
 

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