読むべき本、見逃していない?

明治維新で最初に海外に渡った女性は「遊女」だった

  • 書名 戦後日本の〈帝国〉経験
  • サブタイトル断裂し重なり合う歴史と対峙する
  • 監修・編集・著者名杉原 達 著・編集
  • 出版社名青弓社
  • 出版年月日2018年11月26日
  • 定価本体3400円+税
  • 判型・ページ数A5判・300ページ
  • ISBN9784787234445
BOOKウォッチ編集部コメント

 重苦しいタイトルの本だ。『戦後日本の〈帝国〉経験』(青弓社)。副題に「断裂し重なり合う歴史と対峙する」とある。要するに、「大日本帝国」の歴史と記憶を今の日本がどのように引きずっているか、そのあたりに迫ったものだ。

 9人の研究者が、沖縄や韓国朝鮮、中国、ブラジルなどを舞台に戦前と戦後、現代との関わりを問い直している。「海外」や「外地」からの視点が目立つ。

「玉虫色」の用語が実態を見誤らせる

 わかりやすそうなところを紹介しよう。「上海に見る遊郭と慰安所の関係性」。筆者は青山大学名誉教授の宋連玉さんだ。日韓関係の大きな棘となっている慰安婦問題。歴史学会でも、慰安婦は公娼か否か、動員は強制連行か否か、慰安婦は性奴隷か否か、などの議論が続いているという。

 「内地」の公娼とは、①平時に②市民法のもとでおこなわれ③廃娼規定が存在する、という点が特徴とされる。しかし、宋さんによれば「帝国日本」の居留地、租界、占領地の実態は「内地」とはかなりかけ離れていた。「貸席」や「料理店」が売春の場所になり、女性は「娼妓」ではなく「芸妓」や「酌婦」と呼ばれていた。つまり売春の実態がごまかされていた。業者の中には、名称の曖昧さを悪用して女性をだましたり、酷使したりすることがあった。こうした「玉虫色」の用語が実態を見誤らせてきた、と指摘する。なるほど、そういう一面があったかもしれないと思わせる。

 宋さんによれば、明治維新後に初めて旅券を持って海外に出かけた女性は、1871年の津田梅子ではない。実は68(明治元)年に早くも日本から上海に行った女性たちがいるという。それは、長崎在留のフランス、イギリス、清国の男性に同行した長崎の遊女たちだ。国家が外国人優遇策として、なじみの遊女を同行させたとみる。

「業者の自発的な応募」を演出

 やがて上海に日本人が増えるにつれて、女性たちの数も増える。1886年3月には400人以上の日本人女性が上海に渡航しているが、過半が「淫売目的」だったという。

 このように宋さんは明治期からの上海と日本との関係を丹念に振り返る。1932年の第一次上海事変で海軍慰安所が現地に開設され、同年末には17軒があった。40年には陸軍慰安所が9軒、貸席が4軒という記録が掲載されている。何百人もの「酌婦」らが働き、その中には朝鮮人もいた。

 慰安所の運営は、業者が軍から委託されていた。軍などの管理下に置かれながらも、それを隠ぺいするために自発的に営業を希望したかのようにふるまった。内務省警保局の38年の通達では、慰安所の運営を任せる業者は厳しく選定し、あたかも業者の自発的な応募によるかのように演出するべきだということが述べられている。

 こうした経緯、実態をもとに、宋さんは「慰安婦か公娼か」という議論は意味をなさないと結論付けている。

 本書ではこのほか、「内地と外地の間で――戦前沖縄の軍事的特色」「漢詩人の越境と帝国への『協力』――〈籾山衣洲〉の台湾体験を例として」「外国人として日本で働くということ」などの論文が掲載されている。多くはマイノリティの物語であり、それを生んだ日本との関係を検証している。

 このところ国会で「入管法」論議が高まっているが、マスコミではしばしば日本で働く外国人労働者たちの劣悪な状況が報じられている。本書でもいくつかの実例が示されている。非日本人を排除しようとしようとする、あるいは社会の底辺に位置付ける・・・今も続くこうした冷たい対応ぶりは「帝国」の時代とあまり変わらないことを本書は示唆している。

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