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世間の関心が薄れても「原発汚染」は消えない

除染と国家

 東日本大震災は、多くの人の人生を変えた。本書『除染と国家―― 21世紀最悪の公共事業』(集英社新書)を著した毎日新聞記者、日野行介さんも人生を変えられた一人だ。

 地震が起きたときは、当時担当していた大阪地裁にいた。応援取材で東京に召し上げられ、2か月ほど経産省や東電を担当した。その後、大阪に戻ったのだが、記者人生を「原発」に賭けたいという思いが募り、東京への異動を希望、それから5年にわたり事故取材を続けてきた。

官僚の対応パターンは同じ

 この間、多くの特報に関わった。2012年度は、事故の健康影響を調べる県民健康管理調査で、被害の矮小化を話し合う「秘密会」が開かれている事実を暴いた。13年度は復興庁参事官による「暴言ツイッター」を皮切りに、緊急時の被曝限度として導入した年間20ミリシーベルトを平時の基準にすり替え、一方的に避難指示解除をすすめていることを、14年~15年度は、遠方に避難した「自主避難者」に対する住宅提供の打ち切りなど。16年度は除染の実態、汚染度の無責任な後始末に迫った。

 並行して『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』(いずれも岩波新書)、『原発棄民 フクシマ5年後の真実』(毎日新聞出版)などの著書も出している。

 マスコミ各社には、「3.11」をきっかけに地震や原発の取材に専念し、中には被災地を志願した記者も少なくない。日野さんも広い意味でそうした「3.11記者」の一人だ。

 これまでの経験から日野さんは語る。「テーマによって担当する省庁や官僚は違うにもかかわらず、密室で検討し、被災者の要望を無視した施策を打ち出し、『決まったことだから』と一方的に押し付けるパターンも同じだ」と。「それどころか彼らは一貫して事故を『なかったこと』にしようとしてきた」とボルテージを上げる。そして、その構造は森友・加計問題、自衛隊の日報隠し、厚労省の裁量労働制を巡るデータ問題など、公文書を巡る不適切な処理と同根だと指摘する。

途方もない計画

 日野さんは、現状を憤る被災者にとっては力強い応援団だが、政府側の政治家や役人、企業にとっては執念深くて好ましくない記者ということになるだろう。関係者の一人のところに取材に行くと、すでに日野さんの素性が知られており、「いつか来ると思っていました」などと言われてしまう。

 本題の汚染土ついての話は、なかなか複雑だ。「フレコンバッグ」に詰められた汚染土は最大で2200万立方メートルになると推計され、そのほとんどは福島県内で仮置きされている。現在の計画では、福島県内の汚染土は双葉町と大熊町に建設中の中間貯蔵施設に運び込み、最長30年間保管した後、まだ決まっていないが、どこか県外で「最終処分」することになっている――と聞くだけで、途方もない計画だということが分かる。16年末までに延べ3000万人の作業員が従事し、2兆6250億円のもの国費が投じられた。この費用は東電がすべて支払う建前だが、どうなるか分からないという。いくつもの??が付く国家プロジェクト、それが除染だ。

 役所側で仕切るのは環境庁の除染・中間貯蔵企画調整チーム。「自動車環境対策課長」がチーム長を兼務しているという話を聞くと、国の本気度に疑問がわく。担当者にとっても降ってわいた、押し付けられた仕事ということになりそうだ。「風評被害」を嫌う地元では、おそらく早めの「安全宣言」を求める声も強いはず。福島県の伊達市では、不満を訴える市民に、「お前たちは重箱の隅に付いた米粒だ」と役所の幹部が言い放ったという。少数のクレーマー扱いだ。

 3.11についてマスコミ報道は粘り強く続けられているが、次第に世間の関心が薄くなっていることは否めない。著者は強調する。

 「汚染が消えてなくなったわけではなく、事態の重大性は変わっていない」「国民の関心が薄れるほど、そして、為政者の政策が不透明になるほど、一方的な国策を進めやすくなる。欺瞞に満ちた国策は、この国の民主主義を支えてきた基盤を壊しつつある」「健全な民主主義を支える基盤は、行政の情報公開と報道による監視だと信じる」

 本欄では関連で『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社)、『「脱原発」への攻防――追いつめられる原子力村』(平凡社新書)、『地図から消される街――3・11後の「言ってはいけない真実」』(講談社現代新書)なども紹介している。

  • 書名 除染と国家
  • サブタイトル21世紀最悪の公共事業
  • 監修・編集・著者名日野 行介 著
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2018年11月16日
  • 定価本体860円+税
  • 判型・ページ数新書・256ページ
  • ISBN9784087210576
 

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