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映画好きの鉄道ファン、鉄道好きの映画ファンに

あの映画に、この鉄道

 移動の手段として鉄道への依存度が高いお国柄もあり、日本の映画では鉄道が登場することが多く、作品によっては重要な役割も任されている。これまで個別の作品で鉄道シーンを強調して取り上げられることはあったが、本書『あの映画に、この鉄道』(キネマ旬報社)のように2つの分野を関係づけて語るのは初の試みだろう。

「類書は少ないと思う」

 著者は幅広い著作活動で知られる川本三郎さん。映画のほか、文学や漫画、ファッションについての評論活動や翻訳を行っている。本書で「鉄道の旅も好き」であることを明かしており、川本さんならではの作品ともいえる。ただし、鉄道について「『鉄』というほど詳しくない。列車の形や線路の幅、時刻表などの知識に乏しい」と告白。本書の原稿は「わが鉄道の師」と仰ぐ元編集者に細かくチェックしてもらったという。

 映画と鉄道といえば、ともにマニアが存在する分野。だが二つについて同じくらい好きという人はいても、両方に同じくらい熱を上げる人は多くはないだろう。川本さんも「一般に映画好きの鉄道ファンは少ないし、鉄道好きの映画ファンもあまりいない」と指摘。「類書は少ないと思う」と述べ「本書が両者の架け橋になればいいと思っている」という。

「電車」の東京は除外

 その内容をみると、架け橋というよりは、映画ファンにとっても鉄道ファンにとっても必読書ともいえ、両分野の事典として蔵書にしたい一冊。鉄道に詳しくない映画ファンには、あの作品でなぜあの鉄道、あの場面でなぜあの路線―といったキャスティングの背景を教えてくれる。また、鉄道ファンには、廃線になった鉄道の動態資料として貴重な存在になる作品があることなどの情報は貴重だろう。

 本書では、北海道、東北、関東、中部、関西、中国、四国、九州とブロック別にセクションを分け北から地域別に追う構成。それぞれのなかでさらに府県別のパートが設けられている。それぞれのブロックの最後には、見開きの大きな地図を添え、作品名の一覧と撮影地、路線を紹介。巻末には地域別索引と作品別索引も用意され、映画ファンも鉄道ファンも立体的に鑑賞、利用できるようになっている。車両や駅舎、路線の写真も豊富だ。ただし「関東」に「東京」のパートはなし。「東京を走る鉄道は、鉄道というより電車であり、ローカル鉄道を中心とした本書には合わないから」というのが理由。

「男はつらいよ」がきっかけ

 鉄道と深いかかわりが最も印象的な作品といえば、多くの映画ファンは「男はつらいよシリーズ」が思い浮かべるのではなかろうか。川本さんも、鉄道と映画が自分のなかで結びついたのは同シリーズがきっかけだったという。約50作ある同シリーズの作品のうち、ほぼ半数が本書に登場する。川本さんには『「男はつらいよ」を旅する』(新潮社)という著書がある。

 第7作「奮闘篇」(1971年)の五能線(秋田、青森県)を皮切りに、第13作「寅次郎恋やつれ」(74年)の山陰本線、第15作「寅次郎相合い傘」(75年)の函館本線など、寅さんを追った旅を続けた。その間に、各地で鉄道の廃線が発生していることを知り、廃止が計画されている路線を訪ねるように。同時に、日本映画で鉄道が出てくる作品が多いことに気付き、それらのことが本書のモチーフの一部になっているという。だから、本書は単に映画と鉄道を結びつけて論じたものではなく、現場からの報告でもある。

 鉄道がストーリーに絡んで大きな位置を占めるのはミステリー作品だろう。松本清張のベストセラーを映画化した「点と線」(58年)で登場した鹿児島本線の香椎駅(福岡市)や、「砂の器」(74年)では原作とは異なり冒頭から登場する羽後本線の羽後亀田駅(秋田県)は、作品のなかの姿からは大きく様変わりしている。水上勉の原作を映画化した「飢餓海峡」(65年)では、70年に廃線になった森林鉄道がロケで収められていた。動態資料として貴重という。川本さんは廃線後に同作品のロケ地を訪れ、残されたレールの一部を見つけている。

 J-CAST BOOK ウォッチでは、関連ではこれまで『日本の鉄道は世界で戦えるか』(草思社)、『昭和の終着駅 中国・四国篇』(交通新聞社)などを紹介している。

  • 書名 あの映画に、この鉄道
  • 監修・編集・著者名川本 三郎 著
  • 出版社名キネマ旬報社
  • 出版年月日2018年10月 3日
  • 定価本体2500円+税
  • 判型・ページ数四六判・344ページ
  • ISBN9784873764610
 

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