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天皇陛下の「平成スタイル」の旅とは?

  • 書名 旅する天皇
  • サブタイトル平成30年間の旅の記録と秘話
  • 監修・編集・著者名竹内 正浩 著
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2018年10月17日
  • 定価本体1850円+税
  • 判型・ページ数四六判・269ページ
  • ISBN9784093886307

 天皇陛下は意識的に、全国あちこちを丹念に訪れている。2016(平成28)年のビデオメッセージでも、「日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅も、私は天皇の象徴的行為として、大切なものと感じて来ました」と語っている。

 本書『旅する天皇――平成30年間の旅の記録と秘話』(小学館)はそうした旅を振り返り、記録としてまとめたものだ。なかなかの労作であり、史料としても貴重だ。

データをまとめるのには1年かかった

 本書の核は二つある、と出版社は説明している。一つは、平成の30年間(平成30年は8月まで)の天皇皇后両陛下の旅の移動距離や訪問地などを報道資料をもとに集計、「一目でわかるデータ」にしたこと。もう一つは、30年間の旅先での具体的なエピソードをひもときながら、両陛下の人となり、ひいては平成という時代を浮かび上がらせようとしたことだ。

 どの県を何回訪れたか、被災地訪問はどこに何回か、戦地慰霊、外国訪問、ハンセン病療養所訪問などテーマごとに実に詳しい。データをまとめるのには1年かかったという。

 著者の竹内正浩さんは、1963年生まれの文筆家、歴史探訪家。地図や近現代史をライフワークに取材・執筆をしている。2018年2月には、『天皇の旅と寄り道』(ベスト新書)を出版、主に昭和天皇の行幸などについて詳細に整理していた。今回は平成の時代に絞り、天皇の旅を年代記風に読みやすくまとめている。

 天皇になられてからの最初の旅は徳島から始まったというのは知らなかった。1989(平成元)年5月、徳島で開かれた全国植樹祭。この最初の旅で、すでに「平成スタイル」をつくっていると著者は記している。

 まず、見送り。それまでの天皇陛下の地方行幸では、三権の長(総理大臣、衆参両院議長、最高裁判所長官)が見送るのが慣例だった。しかし、徳島に出発するときは衆議院議長、植樹祭を所管する農林水産大臣、それに警視総監らにとどまった。特別機の中では、同行の関係者との間を仕切るカーテンが廃止された。訪問先では、知事が天皇のお泊り所を訪れて県政報告をするのではなく、天皇が県庁に足を運ぶやり方に改めた。旅先の昼食も、知事などとの会食形式に変更され、沿道の警備も8割を私服警官にしたという。

「おことば」とつながる

 本書はこのように、旅の様子を、こまかく見つめ直している。そのことによって、今では当たり前と思うスタイルが、実は新しい試みで、深い意味があることを知ることができる。

 さらに、それぞれの年の象徴的な旅について念入りに解説している。平成30年の旅としては、北海道の利尻島と、沖縄の与那国島を訪れたことが取り上げられている。著者は、「退位まで1年の時期に、国境に近い南と北の島を訪ねる。そこには象徴的な意味があるだろう」と記す。そして改めて平成28年のビデオメッセージ、「とりわけ遠隔の地や島々への旅も、私は天皇の象徴的行為として、大切なものと感じて来ました」というおことばとのつながりに触れている。

 島めぐりの意外なエピソードも紹介されている。平成5年10月20日、皇后陛下は御所で倒れ、言葉を失っていたが、声を取り戻すきっかけになったのが翌6年2月12日の硫黄島訪問だったという。慰霊を終え、島を離れる直前、随行していた東京都遺族連合会の会長に「ご遺族の方たちは、みなさんお元気でお過ごしですか」と、ほぼ4カ月ぶりに公の場で言葉を発したという。翌日の小笠原諸島父島訪問では、アオウミガメを放流している地元の子どもたちに、「次の波が来るとカメは海に帰るのね」と声をかけた。この離島訪問をきっかけに徐々に言葉が戻ってきたそうだ。

 天皇陛下は18年12月20日の記者会見で、「旅」という言葉を繰り返しながら「象徴としての30年」を振り返られた。

 「私は成年皇族として人生の旅を歩み始めて程なく、現在の皇后と出会い、深い信頼の下、同伴を求め、爾来(じらい)この伴侶と共に、これまでの旅を続けてきました」
 「天皇としての旅を終えようとしている今、私はこれまで、象徴としての私の立場を受け入れ、私を支え続けてくれた多くの国民に衷心より感謝するとともに、自らも国民の一人であった皇后が、私の人生の旅に加わり、60年という長い年月、皇室と国民の双方への献身を、真心を持って果たしてきたことを、心から労(ねぎら)いたく思います」

 本書『旅する天皇』はまさに、そうした天皇陛下のお気持ちを、著者自身が万感の思いを込めてまとめたものと言える。

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