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サイコパスの殺人鬼が主人公、あなたはどこまで共感できる?

怪物の木こり

 第17回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したのが、本書『怪物の木こり』(宝島社)だ。主人公の設定に度肝を抜かれた。勝つためには手段を選ばない悪徳弁護士、二宮彰。彼は日常的に殺人を犯しながら、何食わぬ顔で普通に生活しているサイコパスだった。

 ある日、地下駐車場で怪物のマスクをかぶった男に襲撃され、手斧で頭を割られかける。九死に一生を得て、なんとか重い打撲傷で済んだが、警察の調べにも偽装工作をしてうそをつき、自分の手で殺してやると犯人に復讐を誓う。

 入院中の二宮にはある変化が生じていた。CT検査をしたところ、感情をコントロールする脳チップを埋め込まれていることが分かった。現在は非合法化されている危険な手術を受けた記憶はない。いつ誰が何のために脳チップを埋め込んだのか。二宮は彼の本性を知る唯一の友人で脳神経外科医の杉谷に協力を求める。杉谷は高校の同級生で、サイコパスの殺人鬼である点でも二宮と共通していた。

 一方、東京都内では連続猟奇殺人事件が世間の注目を浴びていた。犯人は被害者の頭を割り、脳を持ち去るという異様な犯行の手口が共通していた。犯人は「脳泥棒」と呼ばれるようになる。警察の捜査で被害者同士に接点はないが、ある共通点があることが浮かび上がった。

 退院した二宮は、幼女を虐待している父親を見かけ、男を殺したい衝動にかられ、数日後実行する。だが自分の行動が理解できなかった。二宮は狂い始めたのか。犯行の帰り、再び怪物マスクに襲われる。

ろくな奴が登場しない

 事件を捜査する警察官も登場するが、全篇ほぼ、とんでもなく悪い奴らの命の取り合いが展開する。感情移入の出来そうな人物はいそうにない。でもページを繰る手は止まらない。ここには書かないが、本書の冒頭に登場する26年前のある凄惨な大量殺人事件が、本件のカギになっているようだ。怪物マスクが「脳泥棒」であることを知った二宮との対決の行方は......。伏線とプロットがうまく、評者の推理ははずれまくりだった。主人公にどこまで「共感」できるかで読後感も変わるだろう。本書の隠れテーマも他者への「共感」と理解できる。

 著者の倉井眉介さんは、大学を卒業後、フリーターやニートをしながら小説家をめざしていたが、34歳になり、いったん筆をおくつもりで昨年(2018年)4月に工場作業員として就職、ガスボンベを転がす日々を送っていた。本作が『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、作家デビューを果たした。学生時代に心理学を専攻したとあって、この作品でも心理が大きな役割を果たしている。別の作品で江戸川乱歩賞の最終候補に残った実績もあり、今後の活躍が期待できそうだ。

 なお、本欄では第15回受賞作『がん消滅の罠 完全寛解の謎』と第16回受賞作『オーパーツ 死を招く至宝』も紹介済だ。  

  • 書名 怪物の木こり
  • 監修・編集・著者名倉井眉介 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2019年1月21日
  • 定価本体1380円+税
  • 判型・ページ数四六判・283ページ
  • ISBN9784800290625

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