読むべき本、見逃していない?

森友・籠池のおかんが「朝日新聞」読むのはなぜだ?

  • 書名 許せないを許してみる
  • サブタイトル籠池のおかん「300日」本音獄中記
  • 監修・編集・著者名籠池諄子 著
  • 出版社名双葉社
  • 出版年月日2018年10月17日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・352ページ
  • ISBN9784575314014

 本書『許せないを許してみる――籠池のおかん「300日」本音獄中記』(双葉社)は森友学園元理事長・籠池泰典さんの妻、籠池諄子さんの手記だ。泰典さんと一緒に逮捕され約300日、夫婦はそれぞれ独房で勾留生活を送った。最初の8か月間は弁護士以外の接見が禁止され、手紙のやり取りも保釈されるまで弁護士としかできなかった。

 本書はこの間に書いた約400通の手紙をもとに再構成されている。そのため、時系列に沿って変化していく諄子さんの様々な思いがリアルにつづられた形になっている。

「主人と結婚出来て幸せ」

 日の出の勢いだった森友学園があっという間に頓挫した。2017年7月31日に大阪地検特捜部に逮捕された諄子さんは現在「被告」の身だ。おそらく人生観も人を見る目も変わったことだろう。そうした著者の思いを四つの視点から紹介したいと思う。

 まずは勾留中も評価が変わらなかった、あるいは評価が上がった人たちについて。トップは泰典さんだ。「主人」とか「お父さん」という呼び方で再三登場する。「主人の悪口を言う人はいない」「ずっと変わらぬ主人」「主人の優しさ」「主人と結婚できて幸せ」などなど。

 17年11月13日。公判前整理手続きのため、逮捕から約3か月ぶりに法廷でちらっと二人は顔をあわせた。「主人の眼光がいつもと違って鋭く、私は思わず涙が溢れました」。先に入廷していた泰典さんが、弁護士に、「家内と手は握れますか」とたずねていたことを知り、また涙が出そうになる。

 つづいて信頼感が揺るがないのが「生長の家」。夫妻はともに信者だ。泰典さんは学生時代、「教祖」の運転手をしていたことがあったという。

 そして意外にも評価が高まったのが朝日新聞。森友問題は同紙のスクープから始まったのだが、諄子さんは拘置所で回覧する新聞として、朝日を選んだ。籠池家ではずっと産経か読売だったし、活動していた「日本会議」では「朝日は絶対に読んではいけない」とも言われていたのに・・・。拘置所で読み比べてみると、「やっぱり朝日が一番いいです」。樹木希林さんの連載などを熟読したことが記されている。

 このほか高評価の人物として前川喜平・元文科省事務次官、貴乃花など。書籍では東京新聞の望月衣塑子さんと自由党の森ゆうこさんの共著『追及力 権力の暴走を食い止める』(光文社)や、鴻上尚史さんが特攻隊の実像を書いた『不死身の特攻兵』(講談社)など何冊も挙げられている。

なぜ土地が8億円も値引きされたのか

 一方、評価を下げた人も多い。これが二つ目のポイント。代表は安倍首相だ。しばしば登場するが、良い評価は一つもない。諄子さんは、森友問題がなぜこんなに騒がれることになったかを振り返り、それは17年2月の安倍首相の国会答弁から始まるとみる。「私や妻が関係していたということになれば・・・総理大臣も国会議員もやめる」。この首相答弁によって、佐川理財局長ら政府関係者が嘘に嘘を重ねざるを得なくなった、と断言する。

 「なぜ、土地が8億円も値引きされたのでしょうか。(首相夫人の)昭恵さんの秘書役の谷査恵子さんが何度も財務省に問い合わせをしてくださったからではありませんか。8億円の値引きなど、普通はありえないですよ」

 昭恵さんへの思いはちょっと複雑だ。昭恵さんが「安倍首相から森友に100万円の寄付」があったことをFBで否定したという情報については、「昭恵さんの口からは語られていないように思う」と半信半疑。そして、こんなことも記している。「昭恵さんは、私のことは好きです。それだけは、私は自信があります」。逮捕前、親密だったころの話として、「昭恵さんは毎日お酒が入らないとだめらしく」と振り返り、酔った昭恵さんから諄子さんの携帯に電話があったことなども紹介している。

 このほか、評価を下げたり幻滅したりした人として、稲田朋美・元防衛大臣、松井一郎・大阪府知事、青山繁晴・参議院議員、葛西敬之・JR東海名誉会長、曽野綾子さん、日本会議、産経新聞などが出てくる。

 『徹底検証「森友・加計事件』を書いたジャーナリスト、小川榮太郎さんも登場する。朝日新聞を厳しく批判する立場の人だ。昭恵さんから紹介され、逮捕前に会うことをすすめられた。小川さんからメールや電話があったが、会わなかった。電話にひとこと、「昭恵さんに裏切られた気がする」とだけ答えた。ところが本は出版された。諄子さんは「朝日新聞も明確な根拠がないままに、捏造だ、報道犯罪だと糾弾されてはたまらないでしょう」と書いている。

「人質司法」の現実に直面

 三つ目のポイントとして、本書が何度も指摘するのは、長期勾留の不当性、「人権無視」の実態だ。これは日産のゴーン元会長の主張とも重なる。

 裁判所は検察の主張を受け入れ、「逃亡」と「証拠隠滅」の恐れがあるという理由で夫妻の長期勾留を認めた。

 「でも、お金もない私たち夫婦がいったいどこに逃亡できるというのでしょうか。証拠隠滅と言いますが、家や園にある書類はあらかた押収されています。いまさら何を隠せるというのでしょう」

 容疑を否認する者、「自白」しない者は保釈を認めない。心が折れて容疑を認めるまで、拘置所に押しこめて取り調べを繰り返し、じわじわと被疑者を追い詰めていく・・・逮捕されて初めて「人質司法」の現実に直面したと強調している。

 実際の取り調べや、拘置所での扱われ方なども不満だ。たとえば監視用の録画カメラ。独房の天井でジリジリジリと24時間、動き続けている。「おトイレするときも回っています。着替えするときも回っています。おばさんでも恥ずかしいです。男の人、みているから」。

 同じような勾留体験がある人の本が励ましになったという。『私は無実です 検察と闘った厚労省官僚村木厚子の445日』(朝日新聞出版)、『私は負けない 「郵便不正事件」はこうして作られた』(中央公論新社)などだ。

自殺しようとしたこともあった

 最後に四つ目のポイント。これは最初から気になっていた。巻頭の家族写真だ。三男二女、子どもたちと一緒の昔の写真が出ている。刑事被告人という立場での出版物だから、通常は家族写真など出さないだろう。家族のゆるぎない団結を示そうとしているのか。

 本文を読み進むと、逮捕直後の8月15日の記述に目が留まる。早朝、「私の布団の横に男の人が寝ていて、『寒い寒い』と言うので布団をかけてあげたら、はっと目が覚めました。夢でした。よく考えると、その男の人は自ら命を絶った亡き息子、かっちゃんでした。あまりにも穏やかな、安らかな顔で、私は成仏していると思いました」。

 かっちゃんは三男。冒頭の家族写真に写っている。「8月15日、やはりお盆に帰ってくるのですね」「泣けて泣けて嬉しくて・・・こんな夢に出てくれたのは亡くなってから7年で一度もなく、初めてのことでした」

 さらに読み進めると、かっちゃんの死についての記述が何度か出て来る。それだけではない。平成7年には園の経営が行き詰まり、自身も自殺しようとして、地下鉄の住之江公園駅に行き、ホームから電車に飛び込む寸前だった話も出て来る。ところが足がすくみ、まぶしいライトの中に飛び込むことができなかったという。

「安倍さんの正体を見抜けて本当に良かった」

 このように本書は盛りだくさん。繰り返しになるが、現在は刑事被告人の立場だから、その内容には自己弁護のニュアンスもあるだろう。ただし、「すべてを失ったから見えてきたこと」があると書いている。

 「逮捕されるまでの人生を今振り返ると、自分の中に驕りがあり、人の言葉に耳を傾けることを疎かにしていたと実感します」「教育に全力を注いできた点には矜持を持っていますが、ひとりよがりの思い込みや思慮不足から、間違った言動を取ってしまった点において深く反省しています」

 本書では、ニュースで報じられるような事件の事実関係の詳細などについては触れていない。冒頭にも書いたように、長期の勾留の中で、当事者の心境がどう変化したのか、関係者を見る目がどう変わったのか、そのあたりが軸になっている。逆に言えばより直截的に事件の核心や本質を、当事者が述懐する形になっている。そうした中で一番きついと感じたのは、「安倍さんの正体を見抜けて本当に良かった」という一言だ。

 本欄では森友関連で『安倍政治 100のファクトチェック』(集英社)、『公文書問題』(集英社)、『監視社会と公文書管理』(花伝社)、『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社)なども紹介している。しかし本書には、この種の本とは別の、しみじみした味わいがある。とりわけ、何度か出て来る「独房の窓にやってくるカラスとの対話」には、上質の掛け合い漫才のような興趣があって捨てがたい。

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