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野田市の事件・・・残された1歳の次女はどうなるのか?

家族という呪い

 どうして? なぜ?・・・。最近の犯罪で多くの人が重苦しい思いを抱いているのは、千葉県野田市の小学校4年生(10)が死亡した事件だろう。

 娘を虐待していたとみられる父親(41)。虐待に加担していたとみられる母親(31)はともに逮捕され、事実関係の解明が進んでいる。

「失ったことによって楽になった」ケースも

 本書『家族という呪い――加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書)は長年、犯罪者の家族の相談に乗ってきた阿部恭子さん(NPO法人World Open Heart理事長)が、過去の様々な犯罪について、なぜ事件が起きたのか、加害者の家族はどんな荒波にもまれるのか、多数の実例をもとに改めて振り返ったものだ。

 野田市の事件はまだ父母の供述もはっきりせず、裁判で何かが確定したわけでもない。したがって、どうして事件が起きたのか分からない部分が多い。両親、親戚などの関係がやや複雑で、父親には「温厚・威圧的」という「二つの顔」があったということなどが報じられている(2019年2月7日の朝日新聞)。

 阿部さんは、数多くの事件に長期的にかかわる中で、事件は「幸せな家族に起きた突然の不幸というより、家庭の中に押しこめられていた問題が顕在化するきっかけだった」と考えるようになったという。

 事件で、家族はこれまでの生活を続けることができなくなり、多くのものを失う。しかし逆に「失ったことによって楽になった」という人も少なくないという。つまり、「事件後にようやく、自分の人生を取り戻すことができた」という人もいるという。このあたりは長く加害者家族に寄り添ってきた阿部さんならではの知見だろう。

「助け合って生きていきましょう」

 阿部恭子さんは東北大学大学院在学中の08年、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や啓発活動を始めた。これまでに全国の加害者家族1000組以上の相談にのってきたそうだ。

 本書は、「エリート夫による性犯罪」「『普通の家族』は幸せなのか」「『よくできた妻』の悲劇」「おしどり夫婦と性犯罪」「世話焼き家族と犯罪」「地方から相談が多いケース」「『男らしさ』に苦しむ男たち」「犠牲になる子どもたち」「家族神話のウソ」「加害者家族からの解放」の10章に分かれ、犯罪と加害者家族の抱える諸問題を掘り下げている。

 「加害者家族の親たちは、子どもを甘やかした人より、むしろ厳しく育てた人の方が多い」「無理をしている人は、子どもにも無理を強いる傾向がある」「自分に厳しすぎると、どうしても他人にも厳しくなる」などの指摘は示唆的だ。

 阿部さんたちのスローガンは「マイノリティでも怖くない」。そして共同体を生きるうえでは「人に迷惑をかけてはいけない」という常識に縛られるのではなく、「助け合って生きていきましょう」という方がポジティブと強調している。

 それにしても野田市の事件の関係者のこれからを考えると、辛いものがある。残された次女(1歳)はどうなるのか。阿部さんに親族のサポートをお願いしたいところだ。

 本欄ではすでに阿部さんの『息子が人を殺しました――加害者家族の真実』も紹介済みだ。

  • 書名 家族という呪い
  • サブタイトル加害者と暮らし続けるということ
  • 監修・編集・著者名阿部恭子 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2019年1月30日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・226ページ
  • ISBN9784344985339
 

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