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江戸時代以前から東京には営々と人々の暮らしがあった

みる・よむ・あるく 東京の歴史 6

 東京は、徳川家康が江戸幕府を開くまで、何もないひなびた寒村だったというイメージが強い。しかし、人々の暮らしは縄文の昔から営々と続いてきたことを本書『みる・よむ・あるく 東京の歴史 6』(吉川弘文館)を読んで、あらためて気づかされた。

 この『みる・よむ・あるく 東京の歴史』シリーズは、世界でも有数の巨大都市である東京の歴史を多様に描く試みだ。東京という都市がどこにいつ造られ、現在に至ったのかを、古文書や絵図、地図、写真などの具体的な史料をもとにわかりやすく解説している。

 3冊の「通史編」と7冊の「地帯編」で構成されている。本書は「地帯編」の3冊目で、品川区、大田区、目黒区、世田谷区の東京・城南地区を対象にしている。

 先史時代の遺跡として、縄文時代後期の大森貝塚があったことで知られる。1877年(明治10年)、アメリカから横浜港に到着した生物学者のエドワード・モースが、横浜から新橋へ向かう汽車の車窓から、大森付近の崖に貝殻の堆積物を発見、発掘調査をしたというエピソードが有名だ。

 世田谷の台地と多摩川沿いの低地の間には、「国分寺崖線」という高低差20メートルに及ぶ急な崖がある。この国分寺崖線上には後期旧石器時代の遺跡がいくつもあり、関東でも最古の遺跡があるという。

 時代はずっと下り、中世の品川は、太平洋海運の港として発展してきた。鎌倉府(室町幕府の関東統治機関)の管理のもと、有徳人(富裕層)が活躍し、多くの寺社があり、武士の都・鎌倉の経済を支える港町だった。

 本書では品川の妙国寺(現天妙国寺)を描いた絵図を取り上げ、品川の町の様子を紹介している。こうした都市としての繁栄ぶりを見ると、冒頭にもかいたが、江戸時代以前には何もなかったという誤った認識にいかに自分がとらわれていたのかと反省するしかない。

 目黒は目黒不動尊の周辺が例外的に「江戸市中」とみなされ、行楽地としてにぎわった。目黒不動尊は、808年(大同3年)に開かれたと伝えられているから歴史は古い。本書では歌川広重が描いた版画と現在の写真を対比し、行人坂や太鼓橋を紹介している。歴史散歩にも役立つ本として活用できる。

東京は日本最大の軍事拠点

 東京は1945年の敗戦まで、日本最大の軍事拠点だった。目黒区には、中目黒に火薬製造所があったほか、大山街道にも、騎兵などの兵営が並んでいた。そもそもは江戸時代、将軍家の鷹場であった駒場野は旗本や御家人の武術演習場としての性格があったという。明治になり、演習に適した東京西郊部は陸軍部隊の野外演習地なった。

 火薬研究所は危険だというので1928年(昭和3年)と群馬県に移転した。その土地は陸軍から海軍に移管され、海軍技術研究所となった。戦後は防衛庁(現防衛省)関連の施設となっている。戦前と同様に、艦船の研究をする艦船装備研究所があり、敷地の中に長さ247メートルの大水槽があることはNHKの「ブラタモリ」でも見たが、住宅地の中にそうした施設があるのは江戸時代から続く東京の「軍事都市」としての歴史ゆえだろう。

 本書は広い東京を基礎自治体のレベルで、ていねいに叙述している。こうしたシリーズが成立するのも東京だからだろうが、他の地域の人が読んでも十分参考になるし、楽しめると思う。

  • 書名 みる・よむ・あるく 東京の歴史 6
  • サブタイトル地帯編3 品川区・大田区・目黒区・世田谷区
  • 監修・編集・著者名池亨、櫻井良樹、陣内秀信、西木浩一、吉田伸之 編
  • 出版社名吉川弘文館
  • 出版年月日2019年3月10日
  • 定価本体2800円+税
  • 判型・ページ数B4判・155ページ
  • ISBN9784642068314
 

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