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長崎県の離島が「キャッシュレス」を急ぐワケ

キャッシュレス覇権戦争

 本書『キャッシュレス覇権戦争』 (NHK出版新書)の著者、岩田昭男さんは、この問題のエキスパートだ。1952年生まれ。月刊誌記者などを経てジャーナリストとして独立。流通、消費生活関係の多数の著書がある。

 最近も、『キャッシュレス時代のクレジットカード&スマホ決済&電子マネー&ポイント攻略完全ガイド』 (マイナビムック)、『キャッシュレスで得する! お金の新常識』(青春新書インテリジェンス)などを出版している。

中国や韓国に大きく遅れる

 岩田さんは講演であちこちに行くことが多い。つい最近は長崎県五島列島の奈留島を訪れた。地元の商店会に招かれたのだ。長崎港からフェリーで2時間半もかかる離島だが、テーマは何と「キャッシュレス」。キリシタン関連遺産が世界文化遺産に登録され、外国人観光客が増えることを見越して、キャッシュレス決済を導入したいのだという。岩田さんはスマホ決済を中心に、キャッシュレス化の方法を説明した。

 クレジットカードや電子マネーなど、現金以外の手段で代金を支払うキャッシュレス。日本での決済比率は2015年段階でまだ18.4%にとどまるが、お隣の韓国では89.1%、中国でも60.0%。アメリカでは45.0%。世界の流れからすると、立ち遅れが目立つ。そこで政府が旗を振り、導入拡大を急いでいる。

 その理由は三つ。まず外国人観光客の増加。自国ではキャッシュレスなのに、来日してみたら現金払いというのでは戸惑う。政府はインバウンド需要の拡大で経済活性化を狙っているから、外国人観光客が多く訪れる場所ではキャッシュレス環境をつくるように後押ししている。

 二つ目は現金払いによるコストの削減。紙幣の製造コストは、年間500億円を超え、全国約20万台のATM維持管理コストは2兆円を超えるので、その削減を狙う。三つ目は、消費者のお金の流れをきちんと捕捉して、徴税を徹底したいということ。

「信用スコア」で個人が「格付け」

 本書は迫りくるキャッシュレス社会を7つの章に分けて解説している。一般の人に深刻な影響があるのは、第4章「『信用スコア』の衝撃」だろう。「信用スコア」とは支払いや借り入れの情報が信用情報としてまとめられ、AIによって点数化されたもの。これまで個別に独立していた各種信用情報が統合され、スコアの高い人は融資や各種優待で厚遇されて、低い人は要注意となる。

 キャッシュレス社会に浸っているうちに、気づいたときは自分自身が「格付け」されているというわけだ。アメリカや中国ではすでに定着しているそうだ。日本でもこの1、2年、動きが広がっている。日本でも6段階のランク分けをするサービスがスタート。関連して本書でPayPay、LINE Pay、NTTドコモなどの動きが報告されている。

 第5章では「GAFAがすべてを支配する――狙われる個人情報」について詳述されている。私たちの生活とは切っても切れなくなったGAFAが、膨大な個人情報を集積し、新たなる「監視社会」が生まれているということはよく知られている。

 終章では、そうした中で「データ監視社会で身を守る」方法について注意を喚起している。「丸裸にされる私たち」「ネットがあなたを監視する」「ポイントの落とし穴」「勝手に個人情報を使わせない」などの見出しが並ぶ。

 本書はこのようにキャッシュレス化に伴う「負の側面」にも目を向けている。結論としては「我々消費者が、自分の身を守るために、どんな策を講じられるかだ」と、利用者の自衛を呼びかけている。

 本欄では関連で『AIが変えるお金の未来』(文春新書)も紹介している。

 
  • 書名 キャッシュレス覇権戦争
  • 監修・編集・著者名岩田昭男 著
  • 出版社名NHK出版
  • 出版年月日2019年2月12日
  • 定価本体780円+税
  • 判型・ページ数新書判・213ページ
  • ISBN9784140885741
 

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