読むべき本、見逃していない?

アイヌ語で「地の果て」はどこか?

  • 書名 千島列島の山を目指して
  • サブタイトル知床、千島、カムチャッカ紀行
  • 監修・編集・著者名大谷和男 著
  • 出版社名牧歌舎
  • 出版年月日2006年12月 1日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数A5判・242ページ
  • ISBN9784434085994
BOOKウォッチ編集部コメント

 北海道という地名が命名されて150年。行きつけの図書館で北海道特集をやっていた。そこでたまたま手にしたのが本書『千島列島の山を目指して――知床、千島、カムチャッカ紀行』(牧歌舎)。読み進めるうちに引き込まれ、結局、図書館の閲覧コーナーで大半を読んでしまった。

 著者の大谷和男さんは1960年生まれ。学生時代から知床に魅せられ、社会人になってからは化学会社の技術者をしながら、埼玉の深谷山岳会に所属。知床のさらに先にある山々の登山を試みた報告書が本書だ。

「空白の島」「極北の謎の半島」

 まずテーマが珍しい。「千島列島の山」。えっ、そんなところに行けるの?と思ってしまう。何せ南千島には北方領土がある。今はロシアが占有しているが、日本との間では領土問題があって、日本人はなかなか行けないところではないのか。さらに北千島の先の「カムチャッカ」。名前は聞くが、遠すぎてどんなところなのかイメージすらわかない。というわけで、普通の日本人にとっては「空白の島」「極北の謎の半島」。しかもそこにある山に挑んだ貴重な記録ということになる。

 本書の扉に現地風景の写真がいくつか掲載されている。見とれてしまったのが、カムチャッカ半島の山々だ。中でもクリュチェフスカヤ山がすばらしい。カムチャッカ半島の最高峰で標高4750メートル。見る方向によっては富士山に似ているということで、「カムチャッカ富士」の異名もあるらしい。この山の最大の特徴は活火山だということ。いまだに毎年のように噴火している。ユーラシア大陸最高峰の活火山だという。ネットで画像検索したら、円錐形の雪山が噴火して白い山肌を赤い溶岩が流れ落ちる写真が出ていた。一見の価値がある。

 もうひとつ、カムチャッカではカーミン山も強烈だ。こちらは4570メートル。やはり円錐形をしている。クリュチェフスカヤ山の近くにあり、相似形の兄弟山のような感じだ。ともに神々しさが半端ではない。日本列島を北へ北へと遡行していくと、ここにたどり着くのだ。

隊長が滑落事故

 本書の中では、この二つの山にアタックした話がハイライトだ。同じ高山でもヒマラヤの山々には、多くの登山パーティが殺到し、シェルパなどの支援体制も手厚い。なんとなく人工的な山登りという感じがする。しかし、このカムチャッカの山々は、いまだ現地にたどり着くのも一苦労。まったく観光地化されておらず、手付かずの雪原の中に端座する。しかも活火山だからいつ噴火するか分からない。スリル満点だ。

 大谷さんは深谷山岳会の30周年記念事業としてこの登山を企画した。登山を原点から見直すという観点から、まだ原始の世界が残っていると考えられるカムチャッカの山を選んだ。メンバーは16人。結果的にクリュチェフスカヤ山の登頂には成功したが、カーミンは強風のため4400メートルで撤退した。クリュチェフスカヤ山の下山途中では隊長が滑落して負傷、一時は意識不明になるという大事故も発生した。その詳細も記されている。

 もう一つのハイライトは北方領土。択捉、国後の登山だ。こちらはカムチャッカに比べると、いささか牧歌的。山も低いが、登山自体がほとんど行われていない山なので、それなりに苦労している。本書にはDVDも同梱されており、そちらで択捉、国後を映像とし見ることもできる。道路などのインフラが最悪で、川には橋がなく、キャタピラーが付いた軍用らしき車両で突破する。

 これらは1994年から1997年にかけての登山行だが、その後、2004年には北千島の無人島にある阿頼度山2339メートルにも登っている。北千島は太平洋戦争で戦場にもなったので、本書には原野に転がるゼロ戦のエンジンや当時のトーチカの写真も掲載されている。

 ペレストロイカ以降、早稲田大探検部などが個別の山には登っているようだが、南北千島、カムチャッカのすべてにチャレンジしたという意味では、本書は珍しい記録ではないだろうか。

最大の被害者は先住民族

 著者の冒険の起点となった知床は、アイヌ語で地の果てという意味だという。

 実際、著者が知床に通った1980年代末ごろは、「行ったものでないとわからない壮絶な這い松地獄」が広がり、危うく死にかけたこともあった。そしてその知床から遠望した北方領土や、さらにその先の島々への思いがその後の冒険行へとつながった。

 「国後、択捉では、景色が知床にとてもよく似ていることに驚き、原始の知床の姿を見た思いがした。また北千島は、南千島とは全く異なる印象で、第二次世界大戦の残骸も数多く見たことから複雑な思いになった」

 「全千島列島は日本とロシアの歴史の中で翻弄されてきた。日本の主張する北方四島は、日本かロシアかと言われればもちろん日本のものだと思うが、日本かロシアかの視点を越えて考えると、その最大の被害者は先住民族であろう」

 著者は山登りをしながら、そんなことも考えていたと記している。

 関連で本欄では、『地図でみるアイヌの歴史』(明石書店)、『海わたる聲――悲劇の樺太引揚げ船「泰東丸」命奪われた一七〇八人の叫び』(柏艪舎)、『鎖塚――自由民権と囚人労働の記録』(岩波現代文庫)、『アイヌ人物誌』(青土社)、『縄文の女性シャーマン――カリンバ遺跡』(新泉社)、『シベリア出兵――「住民虐殺戦争」の真相』(花伝社)、『秘島図鑑』(河出書房新社)なども紹介している。

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