読むべき本、見逃していない?

転職して漁師になるために必要なこと

  • 書名 漁師になるには
  • 監修・編集・著者名大浦佳代 著
  • 出版社名ぺりかん社
  • 出版年月日2019年1月31日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数B6判・168ページ
  • ISBN9784831515254

 こんなに違うものなのか、と驚いた。魚のことである。例えばアジ。その日に捕れたものや、きちんと処理されたものと、一般に売られているものでは全く異なる。刺し身よりもフライにした方が分かりやすい。処理された方は生臭さがないのだ。身もホクホクとしている。漁師はこんなものを食べているのか、と思った。以上は評者の体験だ。

出漁は午前1時半

 本書『漁師になるには』(ぺりかん社)は、タイトル通り漁師になるためのガイド本だ。新鮮な魚の味を絞めただけで漁師を志すのは無謀なのだ。多少命懸けの仕事だがやりがいもある。努力と工夫が所得に跳ね返ってくる仕事なのだそうだ。

 著者の大浦佳代さんは、東京海洋大学修士課程を修了したフリージャーナリストで写真家だ。取り上げている分野は主に農漁業。漁業体験蟹企画や海に関する調査などに取り組む「海と漁の体験研究所」も主宰している。

 本書で最も興味を引かれるのは、現役の漁業者によるドキュメントだ。サンマ漁や定置網、一本釣り、海女、養殖などに携わる若手漁師が登場する。家業を継いだり、転職したり、また学歴もさまざまだ。

 小田原市漁協定置網部の石垣誠漁労長(漁船のトップ、船長は部下)は高校卒業後、服飾メーカー、和食店を経て漁師に。33歳で漁労長に抜擢され、現在46歳のベテランだ。

 出港は年間を通じて午前1時半。10分ほど沖合に仕掛けた網まで行き20人で魚を水揚げする。網は5つの部分から成り、延べ1.3キロ、幅100メートルもある。引き揚げるのはこの内の行き止まり部分の金庫網だ。その手前の坂網を総がかりで引き揚げ、金庫網に追い込んだ魚をすくい上げるのが漁場での作業だ。

 マアジが主な漁獲で、春はワラサやチダイ、カタクチイワシなどが交じる。「やがて跳ねる魚が見えてくる。今日はどんな魚がどれくらい入っているのだろう......ワクワク胸を躍らせる瞬間だ」。上がってきた魚は20分ほどで魚槽に収める一方、イシダイなどの高級魚はその場で神経じめをして鮮度を保つ処理をする。「海に落ちることもあります。ライフジャケットを着けているので大丈夫です......ウミガメが入ることも珍しくはないですね」。同4時ごろ、漁港に帰り、せりまでの2時間ほどで、魚種、サイズごとに仕分けをする。朝食はその後だ。

 石垣さんの船は1日で多い時は約500万円を売り上げる。最高は1500万円だった。

 定置網のほかサーファー上がりの海女や、大学でLED集魚灯を研究してサンマ棒受網漁で劇的なコストダウンを実現した学士漁師などが紹介されている。

船酔いは慣れる

 本書を読めば、日本の漁業の歴史、現在の漁業、水産物の消費と流通、制度・法令などが容易に分かるようになっている。また、漁業が体験できる研修機関や教育施設も紹介されている。

 だが、漁師になるための不可欠な条件は、大浦さんによると、海と体を動かすことが好きだということだそうだ。船酔いは慣れるので心配ない。ただ、新鮮な魚を食べて、その魚が好きでなくてはならない、と評者は思う。

 本書はパイロットや映画監督、パティシエなどの職業に就くための『なるには』シリーズの45番目で、14年前に出たものの改訂版だ。類書に『漁師と水産業 漁業・養殖・流通の秘密』(じっぴコンパクト新書) 、『私、海の漁師になりました。』(誠文堂新光社)などがある。

 関連で本欄では『サカナとヤクザ』(小学館)、『寿司サムライが行く!』(キーステージ21)なども紹介している。

BOOKウォッチ編集部 森永流)

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