読むべき本、見逃していない?

『嫌われる勇気』の著者が書いた、幸せになる読書術

  • 書名 本をどう読むか
  • サブタイトル幸せになる読書術
  • 監修・編集・著者名岸見一郎 著
  • 出版社名ポプラ社
  • 出版年月日2019年2月 7日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・251ページ
  • ISBN9784591162330

 アドラー心理学の紹介者でベストセラーとなった『嫌われる勇気』の著者、岸見一郎さんが一風変わった読書術の本を書いた。本書『本をどう読むか』(ポプラ社)には、岸見さんの個人的な読書体験がふんだんに書かれている。アルフレッド・アドラー(1870-1937)の言葉を引用しながら、知的な生活をするさまざまなヒントを紹介している。

 アドラー心理学は個人心理学とも言われ、人間は相対的にマイナスの状態から、相対的にプラスの状態を目指して行動していると基本的に位置づける。アドラーは原因ではなく目的を考えることによって、対人関係の悩みから解放されると説いている。『嫌われる勇気』は、130万部を超えるベストセラーとなった。岸見さんはもともと哲学の研究者であることは知っていたが、どんな人なのか興味があった。本書でその知的バックボーンをあますところなく披露している。

 なぜ本を読むのか? という問いに対して、本を読めば他の人の人生を追体験することができる、と書いている。人生体験を広げることができる。でも、それだけではない。他の目的がある。アドラーは「人は不幸なラブストーリーを好む」と書いているという。岸見さんは、「恋愛や結婚を恐れる人は、そのような本の登場人物が辛い目に遭い、傷つくのを読んで、代理体験します」とつづける。自分はこれでいいのだ、とあきらめるためにも、と。逆に不幸な人の話を読んで優越感を覚える人もいる。時には「およそ共感したり賛成できないような人が書いた本を読むと多くのことを学べます」と書いている。

 岸見さんは京都有数の高校で学んでいた時、倫理社会の先生と一緒にマルクスの『経済学批判』を読んだそうだ。授業でギリシア語のアルファベットの読み方を教え、新約聖書の『ヨハネ福音書』の冒頭の一節をギリシア語で読むという、受験とはほど遠いハイレベルな内容に触れ、将来哲学を学びたいと岸見さんは思った。しかし、先生は生活に困ると反対し、『経済学批判』を持ち出したのだ。マルクスの理論を教えることで、哲学を学んでも意味がないことを伝えたかったのでは、と岸見さんは推し量る。

 その後、京都大学文学部で西洋哲学史を学び、プラトンを専門とした。『法律』という最晩年の未完の大作を読書会で8年がかりで読んだという。毎週一回、3ページずつギリシア語で読むのだが、ギリシア語を一から学び直した、と書いている。

 そして大学院を終えると、奈良女子大学でギリシア語を教えるようになる。4月に学び始めた学生も秋には『ソクラテスの弁明』が読めるようになったという。この講義は13年後に受講生が少ないからと閉講になり、岸見さんは大学当局に対し、「今あなた方がしようとしていることは、やがて自分の首を絞めることになる」と言い残して大学を去った。

 本の読み方にかんして、ゆっくり読む、遅読の効果を挙げながらも「速読が必要なこともある」と書いている。また同時に何冊も読むこともあるという。

 岸見さんは本が韓国語に翻訳されて以来(30万部のベストセラーに)、講演に招かれることが増えたので、韓国語の勉強を始めたそうだ。アドラーの「不完全である勇気」ということばを紹介し、「外国語の勉強は生き方も変える」と説く。

「書けたことだけが理解できている」

 最後に「読む」というインプットの後のアウトプットについても触れている。「書けたことだけが理解できている」ということばが身に沁みた。評者は仕事柄長年、多くの本に接してきたが、この欄を引き受ける前は、ただ教養として読むだけのことが多く、読んだ本の内容はすっかり忘却のかなたに消えていた。ところが、ここで紹介した本の内容はずっと頭に残るとともに、本同士が連関し合い、自然と頭の中に本のデータベースが出来るようになったのだ。これも「書く」ことの効用だろう。

 「書く」ためのコツも著者は披露している。アウトラインプロセッサという文書作成のためのソフトを使い、思いついたことを順序構わず書き出していくそうだ。

 哲学畑の人と思っていたら、伊藤整『若い詩人の肖像』、芹沢光治良『人間の運命』、福永武彦『死の島』、加藤周一『羊の歌』など文学作品から受けた影響もいろいろ明かしている。『マチネの終わりに』の著者、平野啓一郎さんとの対談に触れ、因果関係に囚われた文学に反発して模索している時に、「アドラーの著作を読んで視野が開けた」という平野さんのことばを紹介している。そして「哲学を基礎とした小説を書いてみたい」と岸見さんは受けている。知的に誠実に生きるということはどういうことなのか。読めば読むほど、味が出てくる「読書論」だ。   

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