読むべき本、見逃していない?

「朝鮮に対しても本当にわるいことをしたのだから・・・」と語った天皇は?

  • 書名 天皇のお言葉
  • サブタイトル明治・大正・昭和・平成
  • 監修・編集・著者名辻田真佐憲 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2019年3月28日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書判・377ページ
  • ISBN9784344985483

 このところ毎年のように力作を発表している気鋭の現代史研究者・辻田真佐憲さんの最新刊が出た。『天皇のお言葉 明治・大正・昭和・平成』(幻冬舎新書)だ。

 今回も着眼点がすばらしい。天皇退位というタイミングに合わせて、明治以降の天皇が残した「お言葉」をおさらいしている。折々の重要な「お言葉」を拾いだし、その背景や真意を分析することで、明治以降の日本150年史の根幹に踏み込んだ形だ。

「お言葉」を教養としておさえておく

 新元号が「令和」に決まった。今回の天皇譲位で、最後にどのようなお言葉を残されるのか。新天皇は、即位にあたって何を告げられるのか。その内容を巡り、マスコミで様々な解釈、解説が繰り広げられるであろうことを想定しつつ、辻田さんはクギを刺す。

 
「天皇の『お言葉』はわかりやすいようで、奥が深い。何気ない言葉づかいがそれまでの歴史と響き合っていたり、なんのことはない一節がさまざまな調整や折衝の結果だったりする」

 「お言葉」をきちんと受け止めるには、我々の側にも準備が必要、と強調する。基礎的な知識を欠いたままだと理解が不十分になる。そうならないためにも、明治・大正・昭和・平成の歴史を振り返りつつ、主だった「お言葉」を教養としておさえておく必要がある、というわけだ。

 天皇の「お言葉」は、特に戦前において日本人の運命を揺るがしてきた。辻田さんは「近現代史を知る上で最高のテキストであり、至高のメディア」とみる。「『お言葉』だけで一五〇年の歴史をたどれるといっても、決して過言ではない」。

「時代的」「超時代的」「人格的」「超人格的」

 もちろん辻田さんは「お言葉」を単純に振り返るといった安易な手法は取らない。まず、「お言葉」を腑分けする。「時代的」「超時代的」「人格的」「超人格的」という4つのレベルで。

 「時代的」とは、その時代の動向に寄り添う性質のもの。「超時代的」とは天皇家の歴史――「皇統」に関わるもの、あるいは普遍的な価値観(平和や人類の福祉など)に関わるもの。「人格的」とは、1人の人間としての発言、「超人格的」とは集団の影響をまぬかれない発言、主に政府や官僚によって起草され、修正・確定したものだ。それぞれの「お言葉」について、常に上記のような定性分析をしながら、慎重にその意味を吟味していく。

 特定の「お言葉」に過剰に注目し、それをもとに天皇像を判断する、といった拙速な態度も避けている。昭和天皇で言えば、「戦前・戦中、軍部を止めたかと思えば、軍事行動を追認し、戦勝にニコニコ笑ったかと思えば、敗退に焦って決戦を求めた」。さらに戦後は「マッカーサーに共産主義の危険性を説いたかと思えば、吉田茂に海外領土の喪失を嘆いた」「まるでジェットコースターのように、上下左右に揺れ動いた」。いわゆる「玉音放送」や「人間宣言」も、「この激しい揺れのなかにおいて、はじめてその意義を正しく理解できる」と冷静だ。

 加えて天皇同士の関係にも踏み込んでいる。「昭和天皇の気負いには、大正天皇の発病が関係しているし、今上天皇の平和への思いには、昭和天皇の戦時下の言動が関係している」。

「今回の戦争は朕素(もと)より不本意なり」

 本書は全体を6章に分けて明治以降の天皇のお言葉を解析している。明治天皇と昭和天皇には各2章を割いている。明治元年の「広く会議を興し、万機公論に決すべし」からはじまり、最近の「天皇としての旅を終えようとしている今・・・」まで見出しに約70のお言葉が取り上げられている。全体として歴史に残る有名なお言葉が多いが、中には初耳のようなものもある。

 近隣国との関係でいえば、日清戦争について明治天皇は長文の「宣戦の詔勅」を出した。これは伊藤博文首相の指示で井上毅文相らが作成したものだった。いわば「超人格的なお言葉」。天皇の本当の思いはどうだったのか。辻田さんは、「今回の戦争は朕素(もと)より不本意なり」と語っていたことを紹介、こちらが明治天皇の「本心」であり、戦争を望んでいなかったとみる。さらに、「このたびの戦争は朕の戦争にあらずして、大臣の戦争なり」と語っていたという話も紹介されている。いずれも「人格的発言」といえる。

 昭和天皇が、「朝鮮に対しても本当にわるいことをしたのだから」と語っていたという話も紹介されている。これは1982年、歴史教科書問題で中韓から抗議を受けたことに関連して内々に漏らした感想だ。『入江相政日記』に記録されているという。これも「人格的発言」だろう。今から見ると「時代的発言」でもある。

 平成の天皇が2001年の誕生日会見で「韓国とのゆかりを感じています」と語られたのは有名だ。桓武天皇の生母が、百済の武寧王の子孫ということにまで言及していた。「超時代的」なニュアンスがうかがえる。

 辻田さんは1984年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科中退。2012年から文筆専業となり、政治と文化芸術の関係を中心に多数の著作がある。本欄では辻田さんの『大本営発表』(幻冬舎新書)、『空気の検閲 大日本帝国の表現規制』(光文社新書)、『文部省の研究』(文春新書)を紹介済みだ。まだ30代半ばだが、該博な知識をベースに、近現代史を串刺しにして語る剛腕ぶりは、若手研究者の中でもずば抜けている。

 「あとがき」をよむと、本書の原稿を脱稿後に、妻の紘子さんを亡くされたそうだ。「最良の読者であり、助言者であり、同志であり、伴侶であった紘子に、この書を捧げます」と記している。さぞかし気落ちしていることだろう。少し時間をおいて、また次なる成果を期待したい。

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?

sub